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外国人従業員の増加や「LGBT」と呼ばれる性的少数者の認知など、ダイバーシティ(多様性)が一段と進む日本の職場。多様な価値観を持った人たちの存在は職場に良い刺激を与えるが、一方で、少数者への不用意な言動が人間関係をこじらせる要因にもなりかねない。職場のダイバーシティにどう向き合えばいいのだろうか。注意点をまとめた。
同僚と打ち合わせする日本IBMの川田篤さん(左)

同僚と打ち合わせする日本IBMの川田篤さん(左)

職場のダイバーシティに関し、多くの企業がいま最も関心を寄せているのが、LGBT社員への対応だ。就業規則を改定して同性カップルにも結婚祝い金を出すなど、差別解消が進み始めている。だが、制度面の変更だけでは問題は解決しない。

「はずだ」は的外れ

ダイバーシティへの取り組みで多くの企業が手本にしている米IBMは今年から、職場における「無意識の偏見」を正すための管理者向け研修を全世界で始めた。「外国人だからこう考えるはずだ、女性だからこう希望するはずだ、うちの職場にはLGBTはいないはずだ、といった偏見や思い込みをなくさないと、少数派の居心地が悪くなり、ダイバーシティの効果が表れない」。日本IBMダイバーシティ担当部長の梅田恵さんは、研修の狙いをこう語る。

LGBTは差別を恐れて公にしない当事者が大半のため、「職場でも当事者がいると気付かずに無神経な言動をしてしまいがち」(梅田さん)だ。例えば雑談時に、オネエタレントを「キモイ」などと揶揄(やゆ)して盛り上がり、近くにいる当事者を傷つけることがある。ゲイやレズビアンの蔑称である「ホモ」「オカマ」「レズ」などの言葉も、口にしない方がよい。

ゲイであることを公表し、LGBT問題で積極的に発言する日本IBMの川田篤さんは「カミングアウトしていないゲイの人に、『彼女いるの?』といったプライベートな質問は控えるべきだ」と助言する。「聞かれた側は、『まあ』などと適当にかわすこともできるが、そうすると今度は聞いた方が無視されたと感じ、いずれにせよ人間関係がぎくしゃくする」(川田さん)からだ。

さらに川田さんは、「カミングアウトした人はプライベートについて聞かれると喜ぶ人も多いが、やはり嫌がる人もいる。でも、それはストレート(異性愛者)でも一緒」と話す。相手がLGBTか否かにかかわらず、相手を尊重したコミュニケーションが重要だ。

率先して自己開示

もっとも、こうした「べからず集」ばかりだと、職場が窮屈な雰囲気になりかねない。それを避けるにはどうすればよいか。川田さんは、職場にカミングアウトした人がいたら、その人に「こういう言葉使いはどうか」などとためらわずに質問することを勧める。互いの距離が縮まるという。

職場の人間関係に詳しい産業能率大学総合研究所の内藤英俊さんは、心理学の「自己開示の返報性」理論の応用を提案する。家族や趣味など自分のプライベートの話を最初に相手に披露すると、相手も同程度のプライベートの情報を開示してくれるという理論だ。「スポーツなど無難な話題から徐々に話題を広げて相手との距離を縮め、相手が返事をためらったら、相手の事情を察すればよい」(内藤さん)

最近は、外国人の採用や中途採用、非正規社員が増えるなど、価値観の異なる人たちが机を並べる職場も多い。そこで注意するのは、「あうんの呼吸」を当然と思わないことだ。IBMの梅田さんは、「欧米に比べて日本企業のダイバーシティが遅れているのは、日本人が考えを言葉にして伝えることをしないから。『空気を読め』は通用しない」と語る。

「これまでの日本の職場だと、例えば上司が『ドア開いているね』と言ったら、それはドアを閉めてくれという合図。それで動かなかったら『君、何年うちの会社にいるんだっけ?』とか『気が利かないね』などと嫌みを言われる」と産能大の内藤さんは指摘する。「つまり、こちらが言ったことを解釈できない相手が悪いという考え方。しかし、ダイバーシティの進む今の職場では、それは通用しない」と強調する。

その上で内藤さんは、「異なる価値観の人たちも理解できるよう、部下であれ同僚であれ、丁寧に説明する努力が大切」と語る。

価値観の異なる人と距離を縮めるためには、積極的なコミュニケーションも必要だ。そんな時は、趣味や出身地、好きなスポーツなど、共通点が多いほど互いに打ち解けやすくなるという心理学の「類似性の法則」の応用が効果的、と内藤さんはアドバイスする。

(ライター 猪瀬 聖)

[日本経済新聞夕刊2016年2月15日付]

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