がん10年生存率公表 平均58%、部位で差
胃・大腸、5年後から横ばい/肝臓、下降続く
データの対象は、全国がんセンター協議会に加わる16のがん専門診療施設で1999~2002年に診断・治療を受けた3万5287人だ。すべてのがんの10年生存率は約58%。部位別でみて治療成績がよかったのは甲状腺や前立腺、乳房、子宮体部、子宮頸(けい)部の各がんで70%を超えた。一方、食道、胆嚢(のう)・胆道、肝臓、膵(すい)臓のがんは厳しい状況だった。
生存率はがんの大きさや広がり具合を表す4段階(1~4)の病期(ステージ)によって大きく変わる。「どの部位も早期に見つけることができれば生存率は高くなる」と国立がん研究センターの若尾文彦がん対策情報センター長は話す。例えば、食道がんは早期がんである1期では約64%で全症例の約2倍になる。
しかし、膵臓がんは早期の1期で見つかっても厳しい。がんの進行が早く、小さいうちから周囲に広がったり離れた場所に転移したりするからだ。肝臓がんは手術で切除しても、別の部分から再発しやすく、治療が難しいという。
10年生存率と同じ集団での5年生存率は約63%。その後の5年間で生存率は5ポイント低下するが、下がり方は部位によって異なる。大腸や胃は5年たってもほとんど変化がない。これに対し、肝臓や乳房などは生存率が下がり続け、再発のリスクが高いことがわかった。このため「経過観察して再発予防に努める必要がある」と猿木信裕・群馬県衛生環境研究所長は助言する。
乳がんは治療後、時間がある程度たってから再発する例が専門医の間では知られていた。「今回のデータは、10年は見たほうがよいという医師の助言の裏付けとなる」と若尾センター長は指摘する。乳がんの中でも特定のホルモン受容体を持っているタイプでは、時間がたってから再発する例もあるといわれている。
がんの5年生存率も最新データをまとめた。04~07年までに診断・治療を受けた14万7354人を対象にした。年次推移をみると、がん治療法などの進化によって、全体として治療成績が上がっているのも分かる。97年にはすべてのがんで62%だったが、07年には約69%に上昇した。
千葉県がんセンター研究所の永瀬浩喜所長は「米国の5年生存率で最もよいデータは70%程度。今回の調査結果は、日本のがん治療が最先端の水準にあることを示す」と話す。
部位別で好成績なのは前立腺がん。97年は約71%だったが07年は100%になった。ただ、胃や子宮のがんの5年生存率の伸びはよくない。
胃がんは手術治療がほぼ確立され、早期発見もある程度されている半面、進行するとなかなか治せない状況が続いていたからだという。「最近は抗がん剤による治療も進化しているため、今後はもう少し数値が上がることが期待される」(若尾センター長)
がんは日本人の死因として最も多いこともあり、長らく「不治の病」とみなされてきた。治るケースはまれで、運がよい場合に限るというイメージが強かった。内閣府が実施した14年度のがん対策に関する世論調査でも、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」と回答した人は、4分の1にとどまった。
しかし「実際には、がんと診断されて10年たっても6割の人は生きている。まだ課題も残っているが、治る病気になりつつある」と若尾センター長は強調する。日々の仕事を続けながら、外来で抗がん剤や放射線による治療などを受けられる場合もある。
国立がん研究センターの堀田知光理事長は「以前は抗体医薬や分子標的薬はなかった。治療法が大きく進歩しているので、今、治療をしている人の生存率はさらに高まるはずだ」と指摘する。
がんでは定期的に検診を受け、できるだけ早期にがんを見つけて治療することが重要だ。40歳以上で胃、肺、大腸などのがん検診の受診率は3~4割にとどまる。国はこの値を5割に引き上げることを目指している。治る病気でもきちんと備え、正しく対処しないといけない。
がん登録センター開設 検診効果など一括で把握
がん登録には、各都道府県が実施する「地域がん登録」と病院ごとに集計する「院内登録」がある。がん患者の数などは地域がん登録で把握していたが、正確には分からなかった。複数の都道府県にまたがる受診や引っ越しなどによる重複が生じていたほか、患者をきちんと追跡できない例もあった。このため、信頼度が高い一部の県のデータをもとに、厚生労働省の研究班が全国の状況を推計していた。
こうした事態の解消を目指し「がん登録の推進に関する法律」が16年1月1日に施行された。すべての病院と一部の診療所に対し、がんと診断された人の情報を都道府県に届け出ることを義務付けた。その情報を国立がん研究センターで一元管理する「全国がん登録」が始まった。
集計データをもとに2018年12月にも、16年時点のがん患者の実数を全国と都道府県別に公表する予定だ。各自治体は患者の情報をきちんと追えるようになる。検診の効果などを把握し、有効な対策をたてられるようになると期待されている。
(西山彰彦)
[日本経済新聞朝刊2016年2月7日付]
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