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増える潰瘍性大腸炎 下痢や血便繰り返す難病

2015/12/15 日本経済新聞 朝刊

 大腸の粘膜に炎症ができて腹痛や下痢、血便を繰り返す難病が潰瘍性大腸炎だ。日本で患者数が急速に増えている。詳細な原因は不明だが、食生活の欧米化やストレスなど様々な環境要因があると指摘されている。専門家は「完治は難しいものの、適切な治療を受ければ普通に生活できる場合が多い」と話す。薬の選択肢が増えているのも朗報だ。

■適切治療で普通の生活に 薬物療法に選択肢

 潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患の一種で、国が難病に指定している。安倍晋三首相の持病としても知られる。大腸の粘膜に炎症や潰瘍、ただれができる。血便や下痢、腹痛などが主な症状で、生命に直接かかわらないものの、1日に何度もトイレに駆け込むなど生活の質(QOL)が下がる。

 筑波大学病院の溝上裕士・病院教授は「10~30代の発症が多いが、最近は65歳以上の発症も増えている」と話す。特に30代までは進学や就職、出産など人生の節目となる時期が多い。そこで潰瘍性大腸炎になると大きな支障を招きやすい。

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 国内の患者数は推定約18万人で、米国に次いで多いとされる。約10年前から2倍以上に増えた。発症の原因は病原体などから身を守る免疫システムの異常が指摘されている。大腸粘膜を何らかの原因で「敵」とみなし、攻撃することで炎症が起きる。異常が起きる詳しい理由は分かっていないものの、食生活やストレス、遺伝的要因なども関係すると考えられている。

 潰瘍性大腸炎と似ている病気には「クローン病」がある。クローン病は病変が大腸に限らず小腸など消化管のどの部分にも起こる。潰瘍性大腸炎は原則、大腸に限定される。

 潰瘍性大腸炎の初期症状は下痢や血便、腹痛、発熱などだ。異変を感じたら医療機関を訪れるべきだが、若い人は我慢してしまう例が多く、受診が遅れがちになる。溝上教授は早めの対応を呼び掛けており「1週間以上、下痢や血便が続いた場合は消化器内科を受診してほしい」と訴える。

 潰瘍性大腸炎は通常、直腸に炎症ができ、その範囲が広がっていく。主に、炎症が直腸にとどまる「直腸炎型」、半分近くまで広がった「左側大腸炎型」、大腸全体に及ぶ「全大腸炎型」に大別される。

 重症度は1日の排便回数や体温などで区別している。例えば、1日6回以上の排便や血便などがあれば重症と診断され、15回以上はさらに悪い「劇症」となる。また、この病気は慢性疾患で、良くなったり悪くなったりという状態を繰り返す場合が多い。

 さらに、壊疽(えそ)性膿皮症や関節炎などの合併症に加えて、7年以上症状が続くと大腸がんになることもある。診断には血液検査、エックス線検査、内視鏡検査などを組み合わせる。「患者は少なくとも年1回、内視鏡検査をしないとがんの発見が遅れる恐れがある」(溝上教授)

 治療は炎症を抑える薬物療法が基本。最近は選択肢が増えてきた。5―アミノサリチル酸製剤の服用が一般的で安倍首相が使用を明らかにした「アサコール」もその一種だ。

 それでも症状が改善されないときは、副腎皮質ステロイド剤やイムランなどの免疫を調節する薬を使う。効き目が強いとされる抗TNFα抗体は、中等症から重症の患者向けだ。抗TNFα抗体などは生物学的製剤と呼ばれ、使える種類も増えている。

 潰瘍性大腸炎の患者は約7割が軽症のため、多くは5―アミノサリチル酸製剤や免疫調節剤で改善する。「適切な治療を受ければ、多くの場合は普通に日常生活を送れる」と東京医科歯科大学の渡辺守教授は指摘する。

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 ただ再発する例が多く、油断は禁物だ。下痢などの症状が収まってもすぐに薬をやめてはいけない。粘膜の炎症などが続いている場合があり、内視鏡で大腸の中を確認するまでは医師の指導に従って薬を飲み続けた方がよい。

 渡辺教授らは安くて効き目の高い薬を日本から世界に発信しようと、臨床試験(治験)に取り組んでいる。新薬の候補は、リンパ球の表面にある特定のたんぱく質の働きを妨げる「AJM300」。東京医科歯科大学や東邦大学医療センター佐倉病院、北里大学北里研究所病院、味の素製薬などが協力している。

 有効性や安全性を調べる第2相試験では、中等症の患者に服用してもらい、有効だと確認できたという。来春までに治験を終え、約3年半後の実用化を見込む。

 潰瘍性大腸炎は薬の選択肢が増えたうえ、メカニズムの解明も進みつつあり、多くの専門家が完治を目指し研究に取り組んでいる。渡辺教授は「難病だからと患者は過度に心配しなくてよい。きちんとした治療を受けることが大切だ」と注意を促す。

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■再生医療など研究進む

 潰瘍性大腸炎の治療は薬が基本だが、症状が重いままだったり再発を繰り返したりする場合は「大腸切除術」という外科手術の実施も検討する。

 この手術では、大腸をすべて切り取ったうえで、小腸を袋状にして肛門に縫い合わせる。便をためるなどの大腸の役目を小腸が担う。

 大腸を失うことになるが、その後は薬の投与や入院が不要になる例が多い。ただ、小腸に炎症が起こる恐れもあるので、手術後も定期的に検査を受けることが欠かせない。

 日本で開発された「血球成分除去療法」という治療法もある。免疫システムで外部から侵入した細菌やウイルスから体を守るのが白血球だ。潰瘍性大腸炎の患者は白血球が自分の腸を攻撃する。そこで血液を体外に取りだして白血球の中の炎症に関与する「顆粒球」などを取り除き、体内に血液を戻す。

 再生医療の研究も進んでいる。東京医科歯科大学の渡辺守教授らは、マウスの大腸の上皮にある幹細胞を体外で大量に培養し、傷んだ大腸に戻した。組織が再生するのを確認できた。

 炎症を抑えるのを目的とした従来の治療とは異なり、この手法は傷んだ組織を治す「粘膜治療」が可能になるという。潰瘍性大腸炎や、同じ炎症性腸疾患であるクローン病などの臨床応用を目指している。このほか、健康な人の腸内細菌を患者に移植する「便移植」という手法の研究も進む。

 研究をしている臨床医の間では「症状緩和」から「完治」へと治療目標が変わりつつある。

(山本優)

[日本経済新聞朝刊2015年12月13日付]

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