黄金のアデーレ 名画の帰還
過ちを許す、でも忘れない
老婦人と新米弁護士がナチの奪った名画の返還を求めて闘った実話がモデル。
英国の舞台演出家から『マリリン 7日間の恋』(2011年)で長編映画監督デビューしたサイモン・カーティスは、そこにナチに踏みにじられ、離散した裕福なユダヤ人一族のかつての日々を加えることでドラマに深い感慨を添える。
1998年。ロサンゼルスで小さな服飾店を経営するユダヤ人女性マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、クリムトが伯母を描いた「黄金のアデーレ」の返還を故国オーストリアに求めようと決意した。それはナチに追われて共に渡米した亡き姉の悲願でもあった。
友人の息子ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)を弁護士に雇うが、彼は妻子を養うために引き受けた新米だ。
こうして一国の政府を相手にユダヤ人女性の闘いが始まる。ウィーンでのオーストリア政府の査問会に出席したマリアには過去が甦(よみが)えった。貧困の中に語られることが多いユダヤ人だが、上流階級の娘だったマリアの華麗な日々の中に描かれたことでナチの非情を際立たせているのが新鮮だ。そんなとき協力を申し出たジャーナリストが、政府は絶対に高価な美術品を手放さないはず、と言った。
その言葉は現実のものとなった。帰国したマリアはあきらめるが、過去を知ってユダヤ人である自分に目覚めたランディは、米国で訴訟を起こす道を必死でさぐりあて、オーストリア政府と対決のときを迎えた。
「皆さんには高価な名画でも私には家族の形見」とランディの説得で証言台に立ち、静かに語るマリアの言葉は、やがて民族の誇りを踏みにじられたユダヤ人の悲しみと怒りをこめた弁護士ランディの最終弁論へと繋がって胸のすく結末が訪れる。許す、でも決して忘れないというユダヤ人の心情が伝わってくる。1時間49分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2015年11月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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