ホワイト・ゴッド
犬と少女、目をみはる光景
ファースト・シーンが異様な光景で、目をみはる。
都市の街路に人っ子ひとりいない。大俯瞰(ふかん)しても無人。その大通りを、10代前半の少女がひとり、自転車を走らせる。と、うしろのほうに犬が数十頭、いや数百頭あらわれる。野犬の群れか。全力疾走で少女を追いあげてくる。
少女の名はリリ(ジョーフィア・プショッタ)。ハーゲンという雑種の犬を飼っていた。両親が離婚し、多忙な母と住むリリには、ハーゲンが唯一のこころのよりどころだった。
母の長期出張で、父のところにあずけられる。この都市(撮影はハンガリーのブダペストだが、架空の都市の設定)では、雑種犬は差別され、飼うのに税金がかかる。それを嫌った父はハーゲンを捨てる。
そこから、ハーゲンのつらい旅がはじまる。野犬として非情な世界で生きのびなくてはならない。野犬ブローカーの手にわたり、アンダーグラウンドでおこなわれている闘犬でたたかうために調教される。いためつけられ、野犬の闘争本能をむき出しにされるのだ。
無敵の闘犬となったハーゲンは、殺人犬ともなり、ブローカーを殺して逃走。捕獲されると、収容所の野犬たちのリーダーとなって集団脱走。人間を襲いはじめる。
このあたりで最初の場面につながるわけだが、さてハーゲンは、飼い主との感動の再会を演じるには、もう危険すぎる恐怖の殺人犬になってしまっている。どうなるのか……。
犬たちの演技がすばらしい。ハンガリー、ドイツ、スウェーデンの合作で監督はハンガリーの新鋭コーネル・ムンドルッツォだが、犬の調教師はアメリカから招いたテレサ・アン・ミラー。「ホワイト・ドッグ 魔犬」(1982年)、「ベートーベン」(92年)等を手がけたカール・ルイス・ミラーのむすめだという。1時間59分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2015年11月13日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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