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日本のいちばん長い日 エリートたちの葛藤

2015/8/16 日本経済新聞 夕刊

岡本喜八監督、橋本忍脚本の「日本のいちばん長い日」(1967年)と同じ半藤一利によるノンフィクションの再映画化。

「駆込み女と駆出し男」の原田真人監督・脚本になるこの作品は、前作のリメークではない。別の資料にも取材し、構成を大きく変えている。

67年版は、原作にとりあげられた事象をほぼすべてとりあげつつ、戦争の最後の1日のドキュメンタリーのように、壮大な群像劇を織り上げた。

この新作は、もちろん最後の1日に重点をおきつつも、45年4月の鈴木内閣発足からドラマをはじめ、そこからの動きをたどる。

中心になるのは、鈴木貫太郎首相(山崎努)、阿南惟幾(あなみこれちか)陸相(役所広司)そして昭和天皇(本木雅弘)である。映画の現在時のそれぞれの立場以外に、かつて同時期に鈴木が侍従長、阿南が侍従武官をつとめていたことがあり、3人には心情的な交流があることがしめされる。

天皇は、気品ある君主として美しくふるまう一方、「空襲で帝国ホテルが休業したそうだが……」と阿南のむすめの結婚式まで気づかうこまかさも見せる。

鈴木が「ご聖断」を切り札にもちい、阿南は軍を抑えるためにギリギリのタイミングまで徹底抗戦の姿勢をとる。あうんの呼吸での連繋が戦争終結を成就させたかのようである。

鈴木、阿南の家庭生活にも目がくばられ、非常時にもこころの余裕をたもつ大物ぶりが強調される。

彼ら以外にも、暴走する軍人たちの代表として畑中少佐(松坂桃李)の「純真」な狂気など、エリートたちの群像もえがかれる。

その一方、一般国民の生死などは蚊屋の外。だからだろうか、みごとなロケセットと撮影のなかで展開されるエリートたちの葛藤に、歴史の感慨よりも、ただ、むなしさを感じる。2時間16分。

★★★

(映画評論家 宇田川 幸洋)

[日本経済新聞夕刊2015年8月14日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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