バケモノの子
現代の「家族」を問う
高畑勲と宮崎駿以後、日本アニメ界の次世代のホープと目される細田守監督の最新作。前作「おおかみこどもの雨と雪」では母と子の結びつきを描いたが、今回は父と子の関係に焦点を当てている。
主人公の少年は9歳で母を亡くし、父と生き別れになる。渋谷の路地裏をさまよっているとき、人間界と並行して存在するバケモノ界・渋天街(じゅうてんがい)に入りこんでしまう。そこで粗暴な剣士・熊徹(くまてつ)の弟子となり、九太という名を与えられる。
屈強な熊徹は渋天街の次期指導者をめざして、好敵手の猪王山(いおうぜん)と鎬(しのぎ)を削りながら、九太を一人前の男に鍛えあげていく。
8年後、逞(たくま)しい剣士となった九太は偶然、人間界の渋谷に戻り、女子高生の楓(かえで)と出会う。読み書きや勉強を教えてもらい、新たな世界に目覚めるが、それは師・熊徹はじめバケモノの世界との軋轢(あつれき)を生む……。
細田作品としてはこれまでになく画面展開がスピーディで、冒険活劇として新生面を開いている。ただ、CGの活用によって、緻密な素早さが増した分、手作り感が後退し、普通のファンタジーアニメの印象に近づいたともいえる。
作品の底にあるのは、家族という根源的な人間関係への問いかけである。そして、家族のかたちが自明なものでなくなった現代において、人間の父と別れた少年がバケモノの継父との葛藤のなかで自己確立していくという物語は、古典的な成長小説のパターンに巧みなひねりを加えている。
さらに、この自己確立のなかで、主人公はバケモノの武道と人間の学問とに引き裂かれ、自分の分身というべきライバル・一郎彦の体現する悪とも向かいあう。娯楽としてのアニメにこれだけ濃密なドラマをつめこんだ力業は評価するが、そこに「白鯨」の新解釈まで持ちこむのはいささかやり過ぎではないか。1時間59分。
★★★
(映画評論家 中条 省平)
[日本経済新聞夕刊2015年7月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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