健康寿命 延ばせるか くらし工夫、転倒防げ地域ぐるみで体操、充実感も欠かせず

政府は、自立した生活を続けられる健康寿命を延ばす取り組みに力を入れている。治療技術の向上や健康診断の普及によって延びてきたものの、介護などに頼るケースも増えてきたからだ。骨折・転倒予防で効果が出る一方で、個人の生活習慣やこころの問題なども影響しそうだ。健康寿命を延ばす秘訣はあるのか。
いすに座ったままでもできる「大東元気でまっせ体操」をする高齢者(大阪府大東市)

「いち、に」「いち、に」――。5月上旬、大阪府大東市にある津の辺公民館。約40人の高齢者が体操をこなした。時間は20分程度で、主に椅子に座り足腰や腕などを動かす。体操は週1回。参加者のまとめ役である河合弘さん(88)は「つまずいて転ぶことがなくなった」と笑みをこぼす。

同市は大阪市中心部から電車で約20分の距離にあるベッドタウン。人口に占める65歳以上の割合は約25%と高い。同市は独自の体操を2005年に導入。高齢者の1割に近い約2400人が参加する。

効果も出ている。05年度の要介護認定率は17.1%だったが、09年度には15.4%まで低下。現在も全国平均を下回る。同市高齢支援課の逢坂伸子理学療法士は「住民自ら参加して続けられるよう工夫した」と話す。体操だけでなくゲーム大会などを組み合わせた。厚生労働省も同市の体操を健康寿命を延ばす効果があると紹介。全国からの視察も絶えない。

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健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を表す。高齢者などに「日常生活に何か影響がありますか」と質問し、「ある」と回答した人から求める。厚労省が13年に約54万人から回答を得た調査で、男性が71.19歳、女性が74.21歳。平均寿命との差は男性が9.02歳、女性が12.4歳。この差が健康でない状態で、ゼロになれば健康な生活を続けて寿命を終えるピンピンコロリとなる。

効果的な方法は何なのか。健康寿命問題に取り組む京都大学の福原俊一教授は「後期高齢者の介護予防が大切だ」と強調する。介護が必要になる原因は65~74歳までは脳卒中など脳血管障害が48%でトップだが、75歳以上の後期高齢者は21%。一方で増えるのが衰弱と転倒・骨折で、34%を占めた。福原教授は「予防は年齢層に分けて行うのが大切だ。後期高齢者は疾患の発症ではなく、転倒や衰弱の予防に焦点を当てる必要がある」と指摘する。

これまで病気になった患者の治療や健康診断による早期発見に力を入れてきた。健康寿命も過去12年間で男女とも1.5歳以上延びた。要因について東北大学の辻一郎教授は「禁煙や適正体重の維持、身体活動の習慣、節酒、適切な食事、検診受診による早期発見・治療などがある」と分析する。

ところが、10歳程度ある不健康な期間がなかなか縮まらない。10~13年は改善したが、高齢者への取り組み不足などが理由とされる。平均寿命の延びで介護や医療費も膨らみ、政府は「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」という目標を掲げ、20年までに健康寿命を1歳延ばすとした。実現に向け大東市のような自治体による介護予防の支援に加え、がん検診や生活の充実などを図る。

医療現場では個人の生活習慣や体質を考慮した予防にも力が入る。京大の松田文彦教授らは滋賀県長浜市で約1万人の健康な住民らを対象に調査。約700項目の質問に加え遺伝子検査などを実施し、どんな行動や体質が病気になるかを探る。

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調査に協力するNPO法人・健康づくり0次クラブ(同市)の辻井信昭理事長は「元気なうちに健康づくりをしなければいけない」と語る。市立長浜病院の琴浦良彦名誉院長も「健康寿命を延ばすには医者だけでなく住民自らの取り組みも欠かせない」と指摘。一人ひとりが自分の生活習慣などを考えた取り組みも必要になりそうだ。

高齢者にとって、こころの健康も大切だ。大阪大学の権藤恭之准教授が70~90歳の高齢者約2000人に聞き取り調査をした。80歳を超えると、認知や運動の指標は下がるものの、幸福感が増す人の割合が高くなった。体が不自由でも人生の充実感は増す。権藤准教授は「健康寿命には心の問題も考えるべきだ」と指摘する。

欧米でも健康寿命の延伸を目標に掲げる。海外の事情に詳しい日本大学の斎藤安彦教授によると「健康」をどのようにはかるかは各国で異なる。まだ正確なデータはないが、日本の高齢者は海外に比べて寝たきりの人が多いともいわれる。

欧州では高齢者の体力などを考えて麻酔による手術などに年齢制限を設ける国もある。医療費削減の視点から日本でも議論されるかもしれない。

膨らむ医療費などで制約がかかるなか、本当の健康とは何なのか。健康寿命を通して改めて考える機会にしたい。

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寿命の限界は120歳? 自立した生活 長生きの傾向

人間はどこまで長生きできるのか。これまで世界の最高齢者はフランス人女性のジャンヌ・カルマンさんで122歳まで生き続けた。亡くなったのは1997年で、20年近くこの記録は破られていない。寿命の限界とも考えられている。100歳前後の長寿者の健康問題に詳しい慶応大学医学部百寿総合研究センターの新井康通講師は「生物学的に人間の寿命の限界はまだ分かっていない」と話す。

一方で、健康寿命の限界はあるのか。慶応大が東京都内に住む百歳以上の高齢者約300人を対象に調べたところ、自立して生活できているのは2割程度だったという。自立して生活が可能な高齢者ほど長生きできる傾向もみられた。健康寿命の長い人は長生きするということになる。新井講師は「健康寿命は110歳くらいが限界ではないだろうか」と指摘する。健康寿命の長さには生活習慣や食生活などに加えて、社交的かどうかなどの性格も関係するという。

(竹下敦宣)

[日本経済新聞朝刊2015年5月17日付]

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