子どもの健康、環境が影響? 環境省が生活習慣など調査
ぜんそく・アレルギー防止に活用
親子10万組が対象
環境省が実施しているのは「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)だ。エコチルはエコロジー(環境)とチルドレン(子ども)を組み合わせた造語だ。11年から始まった。27年まで親子を追跡し、32年までデータを解析する計画だ。全国15地域で親子を募集し、今年3月までに目標を上回る約10万3000組が集まった。
対象となったのは北海道や神奈川、甲信(山梨・長野)、愛知、兵庫、鳥取、福岡県などの一部の市町村だ。東京電力福島第1原子力発電所事故が起きた福島県は県内全域が対象で、参加者も約1万3000組と他の地域より多い。環境省の担当者は「10万組の規模なら先天異常などの発生率が極めて低いケースを解析したり、低い濃度の化学物質の影響を検出したりできる可能性がある」と期待する。
調査は国立環境研究所や対象地域の大学、医療機関などが担う。血液や尿検査などを通じ、子どもが母親のおなかにいる時から13歳になるまでの健康状態を定期的に確認する。出産時の臍帯血(さいたいけつ)や、出産1カ月後の母乳や子どもの毛髪も採取する。父親の半数も調査に加わる。
半年ごとに質問票で日ごろの食生活や運動、地域や住居、家庭、学校の環境、両親の喫煙・飲酒の習慣なども調べる。これらが子どもの成長や発達にどのような影響を与えているのかを明らかにする。
すでに成果も
昨年11月までの分析で暫定的な内容だが、エコチル調査による成果も出ている。その1つが、アレルギーを引き起こす可能性がある物質を含む食品の食べ始めの時期だ。生後9カ月より前の子どもに対し、46%の母親が鶏卵を含む食品を食べさせていなかった。この割合は牛乳・乳製品では54%に達した。コメは同じ時期に99%がすでに食べさせているのと対照的だ。
海外からは、離乳食の開始時期を遅らせても食物アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防には役立たないという報告が相次いでいる。国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長は「卵やナッツなどの食品の食べ始める時期を遅らせたほうがアレルギーが減るのか、それとも増えるのか、あと2、3年するとエコチル調査から分かるようになるだろう」と期待する。
母親の喫煙習慣についても妊娠初期に5%が「現在も吸っている」と答えた。妊娠中は禁煙しても産後に再び吸い始めるケースもあり、1歳半児の母親の喫煙率は8%だった。年齢別にみると、特に25歳未満の若い妊婦が再び吸う割合が高く、20%となった。
調査に関わる山梨大学の山縣然太朗教授は「妊娠初期でたばこを吸う母親から生まれた子どもは肥満のリスクが高くなる」と警告する。胎盤の循環機能の不全が低栄養状態を招き、それが出生後の肥満につながると説明する。
喫煙の有無で比べると5歳児では肥満リスクが4倍に、10歳児でも3倍の開きがあるという。こうした分析はこれまでの別の研究から得られた数字だが、エコチル調査でさらに詳しく分析できると山縣教授はみている。
さまざまな研究の積み重ねで分かってくると専門家が特に期待するのが、ダイオキシンや水銀などの重金属、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の影響だ。発育、性分化、精神神経、免疫・アレルギー、代謝・内分泌系などと何らかの関係があるのかどうかを明らかにしたい考えだ。
背景には、子どもの間でぜんそくやアトピー性皮膚炎などが増えている点がある。これらの病気は生活環境中の物質や食事、運動、遺伝など多様な要因が関係しあって発症すると考えられている。11年の福島第1原発事故により放射性物質による影響も懸念材料に加わった。
エコチル調査の関連シンポジウムに参加した40代女性Kさんは対象地域在住ではないが2歳の娘がおり、「子どもはできるだけ安心できるような環境で育てたい」と話す。これは多くの親に共通した思いだろう。環境省もエコチル調査の結果によっては、化学物質規制の審査基準や水質・土壌などの環境基準を見直す必要も出てくるとみている。
日本は疫学分野が弱いといわれてきた。成果を実際の医療や関連施策に生かしていくことが大切だと関係者は口をそろえる。
(浅沼直樹)
[日本経済新聞夕刊2015年5月15日付]
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