「くる病」乳幼児に増加 ビタミンD欠乏が原因日光浴不足など影響

足の骨が変形し、歩行しづらくなることもあるビタミンD欠乏性くる病が近年、乳幼児の間で増えている。国内では栄養が不足していた時代に多くみられたが、食料事情の改善により過去の病気とされてきた。ここにきて増えた背景には、過度の紫外線対策などでビタミンDが不足している理由が考えられるという。専門家は「適度な日光浴とバランス良い食事を」と呼びかけている。

「くる病の疑いがありますね」。母親とともに中国地方の病院を訪れた2歳男児の「O脚」のような足のエックス線写真を見て、小児科医が診断を下した。

■1歳ごろに発覚

くる病は成長期にカルシウムを骨に沈着させる働きを持つビタミンDが不足し、骨が軟らかくなって変形や成長障害を起こす。遺伝性の場合もあるが、ビタミンDが不足しているケースが大半だ。歩き始める1歳ごろに発覚し、足に負荷がかかってO脚などになりやすい。血中のカルシウム濃度が下がり、けいれんを起こすこともある。

くる病と診断された幼児の足のエックス線写真(岡山済生会総合病院の田中弘之・小児科診療部長提供)

O脚の症状が強い場合は装具で矯正する。放置すると、高齢になってから軟骨がすり減って痛みが生じる変形性膝関節症の発症につながりやすくなる恐れがあるという。

東京大大学院の北中幸子准教授(小児科)によると、戦後間もない時期など、栄養状態が悪い時代に日照時間の少ない北日本を中心に多くみられた。その後患者は減少、20年ほど前はほとんど確認されなかったが、ここ十数年で全国で報告が相次ぐようになった。

北中准教授の集計では、最近の約10年で受診したり相談を受けたりしたビタミンD欠乏性くる病は60例程度。東大病院だけでも昨年に診断したケースが5例程度あったという。

患者の増加を背景に、日本小児内分泌学会は2013年、ビタミンD欠乏性くる病の統一診断基準となる手引を作成。(1)血中ビタミンD(25OHD)の値が低い(2)足にO脚などの変形がみられる――といった症状がある場合はくる病に当てはまるとした。

手引を作成した検討委員会の代表を務めた岡山済生会総合病院の田中弘之・小児科診療部長は「くる病は現在では決して珍しい病気ではない」と指摘。背景として、日光浴の不足やアレルギーによる食事制限などを挙げる。

ビタミンDは紫外線に当たると体内で合成される。1980年代ごろから欧米を中心に紫外線による皮膚がんの発生が問題視されるようになり、日本でも「紫外線は良くない」という風潮が広まった。

■食材制限も要因

このほか、食物アレルギーなどへの対策として、ビタミンDを多く含む食材の摂取を制限することも理由として考えられている。「ミルクに比べて完全母乳だとビタミンDが不足がちになる」(田中部長)との指摘もある。こうした要因が絡み合ってくる病を引き起こすと考えられる。ビタミンDが不足すると、成人でもカルシウムの吸収が悪くなり、骨軟化症や骨粗しょう症の原因となる可能性がある。

くる病を防ぐにはどうすればよいか。日光にどれくらい当たればよいのかの明確な基準はないが、北中准教授は「日焼けするほどは必要ないが、その数分の1程度は必要」との目安を示す。

食材でビタミンDを多く含むのは魚や卵だ。アレルギーがある場合は「サプリメントなどで補う」(田中部長)方法もある。くる病と診断されても、その後に日光浴や適切な食事、投薬などを一定期間行えば、症状は改善するという。

田中部長は「適度な日光浴やバランスのとれた食事などに気をつけてほしい」と呼びかけている。

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ビタミンDの摂取基準 日本の乳児は5マイクログラム 紫外線で生成、地域で差

厚生労働省がまとめた「日本人の食事摂取基準」(2015年版)では、ビタミンDの1日当たりの摂取量の目安は、生後0~11カ月の乳児は5マイクロ(マイクロは100万分の1)グラム、18歳以上は5.5マイクログラムだ。文部科学省の食品成分データベースによると、サケの切り身なら100グラムあたり20マイクログラム以上、卵は100グラムあたり約1.8マイクログラム含まれる。

米国は生後1歳までは10マイクログラム、成人は15マイクログラムと多いが、厚労省は「紫外線も考慮して算出しており、一概に海外に比べて低いとはいえない」とする。

紫外線で生成できるビタミンDの量は地域や季節などで異なるとされる。国立環境研究所などの研究チームが14年に公表した調査結果では、1日に10マイクログラムを体内で生成するとした場合に必要な日光浴の時間(12月の晴天の正午、顔と両手の甲を露出)は那覇市で14分、茨城県つくば市で41分、札幌市で139分だった。

この2~3倍の量を浴びると皮膚に悪影響が出るとの推計も明らかにし、研究チームは「冬の北日本では積極的な日光浴とビタミンDの補充が必要」と指摘している。

(平野慎太郎)

[日本経済新聞夕刊2015年4月16日付]

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