男性のがんと不妊治療  精子の保存、連携に課題専門医不足、子どもへの説明複雑

がん治療に伴って不妊になる可能性があるのは大人の女性に限らない。だが、男性の不妊治療に当たる独協医科大学越谷病院の岡田弘教授は「がんの治療前に男性患者に将来、子供を持つための精子凍結法を説明し、対応策も考える医療機関はまだ少ない」と話す。

■精巣機能低下も

血液や臓器などのがんを患う男性を放射線や抗がん剤で治療した場合、精巣の精子を作る機能が低下しやすい。薬の種類や放射線の照射量により一定期間がたてば機能が回復する例もあるが、精子数が十分に戻らない人や無精子症になる人もいる。直腸がんなどの手術時に神経が傷つき、射精障害が出る可能性もある。

自分で射精した精子を凍結保存し、必要なときに解凍して体外受精させれば、子を得ることは技術的に可能だ。だが「男性不妊を担当する泌尿器科医が全国的に少なく、がん治療医との連携も不十分だ」(岡田教授)。治療前の限られた期間内に凍結保存をする患者は少ないのが現状という。

そこで独協医大越谷病院は2015年6月にがん患者の精子凍結を担う専門のセンターを開設する。埼玉県や東京都などのがん治療病院とも協力する方針だ。

連携で実績を挙げているのが横浜市立大学市民総合医療センターの生殖医療センターだ。12年から神奈川県内の病院と協力し、がん患者の精子の凍結保存を進めている。患者が精子凍結に関心があれば、主治医からの紹介で同センターでカウンセリングを受ける。納得し希望すれば実施する。

凍結保存の料金は初年度2万円で、保管料が年1万円だ。毎年約30人が新たに申し込んでおり保管数は約100件に達した。同センターの湯村寧部長は「安心してがん治療を受けられると話す患者が多い」と語る。精子凍結をしなかった場合でも、治療後に顕微鏡を使い精巣から受精可能な精子を見つけ出せる例もある。

「小児がんの多くは治るようになったが、治療の影響でさまざまな合併症が出る。不妊もその一つだ」。15年2月に大阪市で開かれたがんと生殖を考えるシンポジウムで、日本医科大学の前田美穂教授は訴えた。

15歳未満で発症する小児がんの患者は年間2500人程度だ。白血病などの血液のがんが約3分の1を占め、脳腫瘍などが続く。治療技術の向上で、小児がんの7~8割が治る時代になった。新たな懸念として浮かび上がってきたのが抗がん剤や放射線治療などの影響と考えられる合併症だ。

■7割に合併症

数年から数十年という期間で患者の約7割に合併症が出るという。心筋症など命にかかわるものから聴力の低下、歯や骨の異常などさまざまだ。生殖機能関連ではホルモン分泌に支障が出て、思春期になっても月経が始まらない女の子や男性ホルモンが増えない男の子なども報告されている。

思春期以降ならがん治療前に精子・卵子を凍結保存できるが、体が成熟していない思春期前は難しい。そこで卵巣組織を凍結する試みも始まった。滋賀医科大学病院では13年1月~15年2月の間に、骨肉腫などの女の子5人が抗がん剤使用前などに卵巣組織を凍結した。2つある卵巣のうち片方を取り出し、表面部分を薄く小片にして凍結した。

治療後、残った卵巣が働いていない場合、卵巣組織を解凍して体内に戻せば自然妊娠などが期待できるとみている。今のところ白血病などは対象外だが、臨床研究を進める木村文則講師は「患者の選択肢の一つとして技術的に確立しておく意味は大きい」と指摘する。

男の子向けは、横浜市立大などが未熟な精巣組織の一部をいったん凍結し、解凍後に培養皿で成熟させて精子を作る方法を考案し、ネズミで確かめた段階だ。

ただ、小児の場合は課題も多く横たわる。まず成人と比べ、診断からがん治療開始までに費やせる時間が少ない点だ。いろいろな選択肢を検討したり実行したりすることが難しくなる。

倫理面でも、年齢から不妊という状況を本人が理解できず、実施の可否を判断できないなどの点がある。親に説明することになるが「我が子の命にかかわるがん治療に直面する中、将来の生殖機能の温存まで考えて判断するのは容易ではない」と日本医大の前田教授は話す。通常の抗がん剤治療の場合、大人になってから自然妊娠が可能な例が多いことも問題を複雑にしている。医師が判断材料を提供しにくい状況にある。

前田教授も加わるNPO法人「日本小児白血病リンパ腫研究グループ」は、治療法と合併症の関係を示すとともに、小児がん患者の体の状態を長期間追跡して早めに合併症を見つけて対応する仕組みを整えてきた。今後は小児のホルモンの専門家などと連携し対策を充実させる方針だ。

西村絵が担当しました。

[日本経済新聞夕刊2015年3月13日付]

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