寒い冬　焼きフルーツでぽかぽか

フライパンでジューッと焼いた洋ナシや、オーブンから取り出したばかりの、しんなりホカホカした丸ごとのリンゴ。タカノフルーツパーラー新宿本店（東京都新宿区）の調理場には、焼きフルーツの甘く香ばしい香りが漂っていた。

フルーツの多様な食べ方を提案したいと、何年も前から焼きフルーツを含むホットデザートを提供してきた同店。「フルーツは普通、生で食べるものと思われているが、火を入れることでまた違ったおいしさになる」と話すのは、フルーツのスペシャリスト、フルーツクチュリエの森山登美男さんだ。「焼くと水分が適度に抜けて、味が凝縮され濃くなる。コクが出る」

焼くのにお勧めなのは、森山さんいわくリンゴ、グレープフルーツ、洋ナシ。特にグレープフルーツや、紅玉など酸味の強い品種のリンゴは、熱を加えると酸味が抑えられ、甘さがほのかに増す。「ただし焼きすぎると、甘みが消えていく。適切な焼き加減を見極めることが必要」。

そもそもフルーツは一つ一つ熟れ具合が違う。よく熟れたものを使ったり、火を入れすぎたりすると「ソースになってしまうので注意して」。逆にまだ熟れていない堅めのフルーツは、焼くことでおいしく食べやすくなる。フライパンで焼く場合、強火でさっとソテーし、食感をある程度残すのがポイントだ。

「もともと甘いバナナやミカンは焼くだけでもいいが、酸味のあるフルーツには、グラニュー糖やシナモンを加えるなど、ひと手間かけるのがベター」（森山さん）。クルミやチーズなどと一緒に焼いたり、アイスクリームやヨーグルトと合わせたりしても。「焼きリンゴは、鶏肉のソテーといった料理にもよく合う。リンゴの焼き汁が絶妙なソースになる」

冬のおもてなしに、ちょっとおしゃれに盛りつけた焼きフルーツのメニューはいかがだろうか。意外な味わいに驚きの声が上がりそうだ。「冷めるとおいしくないので、ぜひともアツアツのうちに」（森山さん）

「フルーツは焼くと味や食感だけでなく、成分も変化する」と話すのは、崇城大学薬学部教授で焼きフルーツ健康法の提唱者、村上光太郎さん。「例えばバナナのフラクトオリゴ糖が増えたり、リンゴのペクチンが活性化したりする」。どちらも腸内環境をよくし、便秘解消や美肌に効果的といわれる成分だ。

そもそも日本には、古くから焼きフルーツを食養生に役立てる生活の知恵があった。「今でも京都の寺や神社が、風邪封じとして参拝客に焼きミカンを振る舞う風習がある」

村上さんは言う。「なぜフルーツを焼くと体によいか。第一に皮ごと食べられるようになるから」。生では消化に悪い皮。実はここにこそ、体によい成分が果肉以上に含まれているフルーツが多い。「例えばミカンの皮は、胃のもたれやセキなどに効く漢方の陳皮になる」。ほかにも腸の働きを活発にするナリンギン、骨粗しょう症予防や発がん抑制作用があるとされるβクリプトキサンチンなどが豊富だという。「ミカンを皮ごと焼けば、こうした皮の有効成分が果肉に浸透するだけでなく、苦みがやわらいだ皮自体も食べられるようになる」

皮についたワックスを取るには、みかんを40～50度のお湯に約1分浸け、表面を布でふく。焼き方はいろいろある。フライパンで転がしながら、ガスコンロに網をのせた上でひっくり返しながら、あるいはアルミホイルにくるんでトースターで焼いても。「いずれも皮に軽く焦げ目がつくまで焼いて」（村上さん）

食材を丸ごと食べることを推奨するホールフード、一物全体という言葉がある。バナナなど難しいものもあるが、フルーツもできるだけ皮つきのまま食べるのが理想とする考え方だ。焼きフルーツは、これをかなえるものともいえるかもしれない。

（ライター　松田　亜希子）

［日経プラスワン2015年1月31日付］