薄氷の殺人
現代中国のリアルな空気
現代中国社会のリアルな空気を感じさせるハードボイルド・ミステリー。
昨年公開されたジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の「罪の手ざわり」も、犯罪を通して中国社会を見ていた。あれは、作家固有のスタイルをつよく打ち出した作風だったが、こちら、これが第3作となる新鋭ディアオ・イーナン(●亦男)監督は、アメリカで生まれたハードボイルドもしくはフィルム・ノワールとよばれるジャンルの正統的な形式をつよく意識し、踏まえている。そのことが中国映画にはめずらしいタッチを生み出した。
発端は、1999年夏。刑事ジャン(リャオ・ファン/廖凡)は、妻に愛想をつかされ、離婚。
バラバラ死体事件がおこる。嫌疑のかかった兄弟2人を追いつめると、拳銃をもっていて、同僚刑事2人が射殺され、ジャンが兄弟を殺すが、自分も負傷する。このワン・カットで撮られた、一瞬の銃撃戦がリアルで目をみはらされる。
ジャンは警官をやめる。
2004年冬。生きる目的をうしない、酒びたりのジャン。元同僚のワンと偶然、再会する。新たなバラバラ殺人事件がおこったという。しかも、5年まえの事件で被害者とされた男の妻の周辺で。2度も。
ジャンは、クリーニング店につとめるその女ウー(グイ・ルンメイ/桂綸●)に接近し、さぐりはじめるが、同時に彼女の魅力にひきよせられていく。伏し目がちで地味なこの女がファム・ファタールなのか。
ストーリーは、そこから二転三転する……。
「マルタの鷹」(41年)、「第三の男」(49年)等を参考にしたというのが、うなずけるが、単なるシネフィル的なお遊びでなく、あくまで現代中国の空気を濃厚にすくいとり独特な気分をかもすところがすばらしい。
グイ・ルンメイの魅惑がぐっとこころにしみる。1時間46分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2015年1月9日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。