マップ・トゥ・ザ・スターズ
いびつな感情さらけだす
「ザ・フライ」「クラッシュ」のデヴィッド・クローネンバーグ監督は奇想の映画作家だ。この作品も題名から想像されるような単純なセレブリティ(有名人)の内幕ものではない。ハリウッドを舞台としながら、およそあらゆる人間の心理の奥底に潜むいびつな感情をえぐりだし、さらけだす。
顔に火傷を負った18歳の娘、アガサ(ミア・ワシコウスカ)がフロリダからハリウッドにやってくるところから映画は始まる。
モダンな豪邸に住むワイス家は絵に描いたようなセレブ一家。父スタッフォード(ジョン・キューザック)は自己啓発本を著し、多くのセレブを顧客にもつセラピスト。息子ベンジーは子役スターで、母クリスティーナはマネジャー。母は息子の薬物醜聞をもみ消し、復帰に向けて余念がない。
スタッフォードに治療を受ける女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)は寄る年波に焦っている。焼死したスター女優である母の幻影におびえ、劣等感にさいなまれている。母の代表作のリメーク作品では、なりふり構わず役を取りに行く。
アガサはハバナの秘書となり、ワイス家に近づく。実はアガサはワイス家の長女なのだが、ワイス夫妻にとってはその禁忌に触れる危険な存在だった……。
脚本家ブルース・ワグナーは「サンセット大通り」に触発されたというが、病んでいるのは落ち目の女優ハバナだけでない。ワイス家の人々もみな何かにとりつかれている。それぞれがガラス細工のような虚栄の世界を守り、異物を排除しようとし、暴発する。
突発する暴力も、内面の危機も、クローネンバーグは全て具体的に描き出す。プールサイドでめらめらと燃える炎や、トロフィーで殴打する鈍い音。その鮮烈な映像が尾を引く。ハリウッドという異空間でなく、我々と地続きの世界にある狂気と暴力。だから恐ろしい。1時間52分。
★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2014年12月19日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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