福福荘の福ちゃん
人生の暗さ克服する笑い
荒川良々主演の「全然大丈夫」(2008年)で独特の喜劇センスを見せた藤田容介監督6年ぶりの長篇。
荒川良々から細胞分裂したような、坊主頭の大島美幸(森三中)が主役の福ちゃんこと福田辰男。大島は、コントでよく中年のおっさんを演じていたが、そのキャラとは無関係。
30代前半の塗装職人で、古いアパート、福福荘に住み、職場の後輩や同じアパートの独身者たちに親身に接し、元気づける。気性のいい男だ。
女性の、しかもブサイクであることを堂々と売り物にできる、お笑い芸人の大島美幸がこの役を演じることで、男のなまなましさのない、どこにでもいそうでいないキャラクターが誕生した。4コマまんがの主人公のように、ほがらかに人に影響をあたえつづける福ちゃん。しかし複雑さもかかえた人であることが、だんだん見えてくる。
仲のいい同僚の荒川良々が、妻(黒川芽以)とともに、福ちゃんに結婚をすすめ、無理やり相手(山田真歩)にひきあわせたりするのだが、福ちゃんはかたくなに拒否する。福ちゃんにはトラウマがあった……。
映画の途中から、写真家をこころざすOL、千穂(水川あさみ)のストーリーが、福ちゃん周辺のはなしと並行し、やがてまじわる。彼女こそ、中学時代の福ちゃんのこころを深く傷つけた初恋の人だった。
孤独のあまりニシキヘビを飼いはじめた、東大卒のプータロー(芹沢興人)、被害妄想が高じ、精神に異常をきたす青年(飯田あさと)等々、ちょっと変わった人間がつぎつぎと登場する。
もしストレート・ドラマでこれをやったら、陰惨きわまりないものとなるかも知れない。それを藤田容介監督(脚本も)は、上質な笑いに転化させていく。笑いのための笑いではない。人生の暗さを克服するための笑いだと感じる。1時間51分。
★★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2014年11月7日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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