生きる力支えるコミュニティ テロのトラウマどう克服東京工業大学教授 上田紀行

社会的な不安や苦悩の連鎖と悪循環から抜け出す方法が求められている イラスト・よしおか じゅんいち
社会的な不安や苦悩の連鎖と悪循環から抜け出す方法が求められている イラスト・よしおか じゅんいち

アメリカの同時多発テロ事件から20年が経過した。ワールドトレードセンターに航空機が突っ込む、あの信じがたい衝撃的な映像は21世紀の不吉な幕開けだった。それに引き続くテロ、大震災、津波、そしてコロナウィルスによるパンデミック……。「想定外」の悲劇が私たちに次々と襲いかかっている。

それは悲劇の当事者に耐えがたい悲しみと苦悩を与える。そして社会全体が大きな不安に包まれ、その不安が新たな葛藤を生みだしていく。この20年が指し示しているのは、社会的トラウマの連鎖と悪循環から抜け出す方法が今こそ求められているということだ。

20世紀後半が右肩上がりの中での「サクセス」の追求の時代だったとすれば、21世紀は明らかに苦しみや喪失からの「立ち直り」が求められる時代だ。

A・ゾッリ、A・M・ヒーリー著『レジリエンス 復活力』(須川綾子訳、ダイヤモンド社、2013年)の出発点も、現代において災害や大混乱を避けるのは難しく、その状況下でも健全性を維持、回復する力(レジリエンス)こそが重要だという視点だ。組織面では一見頑丈そうに見える組織は実はもろく、多様性やリーダーシップの分散性がある組織のほうが実はレジリエンスがある。世界中の様々な組織を探索した後の結論は「接続しているが結びつきは強すぎず、多様であるが拡散しすぎず、それが有益であるかぎり他のシステムと連動するが、むしろ有害と見れば自らを切り離す」ような場所にレジリエンスは育つということだ。では個人のレジリエンスはどうだろうか。注目されるのは仏教の瞑想(めいそう)とそこから発展した「マインドフルネス」だという。

大谷彰著『マインドフルネス実践講義』(金剛出版、17年)は、「『今、ここ』での体験に気づき、それをありのままに受け入れる態度および方法」である「マインドフルネス」による、トラウマセラピーの著作である。孤立感と非力感にさいなまれ、自由、価値、尊厳といった人間性が奪われてしまうトラウマをいかに治療するか、それはまず何よりも「共感に始まり、共感の維持に徹する」ことだという。そしてトラウマを外部に排出して除去するのではなく、むしろ自分の自己概念に取り込んでいく。それはその原因となった体験を物語として再構成し、それを完結させることであり、そこから自己成長していくことが強調される。