期限が迫り不安で眠れぬ夜を過ごすなか、ある体験を思い出す。大学に出向き、学生に講義をしたときのことだ。政府が伝えたい情報を台本通りに話すと居眠りが始まる。そこで野菜ソムリエの資格を取得した話など雑談に切り替えると、途端に学生らは耳を傾けた。

「同僚や若手職員の趣味や特技を深掘りする動画を作ろう」。そう決心し、20年1月に始動。「サツマイモが好きすぎる若手職員が、その魅力を専門家と語り合う動画」「省内で炊いたおいしいご飯でおにぎりを作り、大臣に食べてもらう動画」など、これまでに約650本を投稿した。ギャップが話題を呼び、今や3カ月で100人超が関わるプロジェクトに育った。

日本の農業の担い手は年々減る。身近な動画で農業の面白さを若者や女性に知ってもらうことは、食の将来のために不可欠だ。「キャリアは受け入れるものではなく、一つ一つ積み重ねるもの」。さらなる発信を目指し、働き続ける。

(聞き手は千葉大史)

[日本経済新聞朝刊2021年9月6日付]