山崎豊子さんの『華麗なる一族』は思い出の一冊です。小学5、6年生くらいに初めて読みました。少し前に木村拓哉さんや中井貴一さんが主人公のドラマをそれぞれ見て、もう一回読んでみようと思い立ちました。山崎作品は政治家、経営者、官僚、マスコミなどの関係が非常に生々しく描写されています。小学生の時はまったく別世界として読んでいた世界に自分がいまいるという面白さもありました。

吉川英治さんの『宮本武蔵』を読んだのは中学の時。私は小学校でクラス委員を務め、中学では生徒会長をしました。その頃、みんなのお世話を頑張っているつもりなのにけっこう孤独でした。この小説の締めの言葉は「波騒(なみざい)は世の常である。波にまかせて、泳ぎ上手に、雑魚は歌い雑魚は躍る。けれど、誰か知ろう、百尺下の水の心を。水のふかさを」。リーダーは孤独だし、周りにわかってもらえないのだと。

仕事のヒントを得ることも。

経済産業大臣を務めたこともあり、新しい経済成長のヒントを探しています。近年の出色は『アフターデジタル』。デジタルトランスフォーメーション(DX)によって何が起きるのかを分析し、かつ中国の事例を分かりやすく解説しています。『ファクトフルネス』は我々の物の見方が間違っているとデータで実証し、先入観を覆します。

やはり歴史が大好きです。日本がなぜ太平洋戦争に至ったのか、そして負けたのか。野中郁次郎さんらの『失敗の本質』から始まり、いろいろ読みました。自民党の斎藤健さんが官僚時代に書いた『転落の歴史に何を見るか』は極めて優れた分析です。奉天の会戦で合理的に動いた日本陸軍がノモンハン事件のような無謀な戦いをする組織になったのか。繰り返し読みました。

政治家はチャーチルが好きです。駐米大使の冨田浩司さんが以前に書いた『危機の指導者 チャーチル』は名著です。小谷賢さんの『日英インテリジェンス戦史』はチャーチルが戦略的に日米を戦わせるために、いかに諜報(ちょうほう)を活用したかを描いています。私は政治家としてあの戦争の失敗だけは、命をかけても絶対に繰り返してはならないと肝に銘じています。

(聞き手は編集委員 坂本英二)

[日本経済新聞朝刊2021年8月7日付]