2021/7/19

ホンダの取締役鈴木麻子さん(57)も自らチャンスをつかみとったタイプだ。87年に入社。発展途上国で仕事をしたいと希望していたが、途上国は生活のリスクが高いと考えられており「女性だから……」と実現しなかった。98年にタイの現地法人に赴任する社員を探していると聞きつけ、上司に「行きます」と直訴した。念願がかない、そこからベトナムやマレーシア、中国などアジアで10年以上も国際業務を担ってきた。

畑違いの分野への挑戦でキャリアアップ

取締役は管理職以上に秀でた実力を求められる。強みとなる専門分野を持ちつつ、異なる分野への挑戦でさらなる成長を遂げるケースもある。

大日本印刷の取締役宮間三奈子さん(59)はその一人。理工学部大学院修了のリケジョだ。研究職は結果がすべて。結婚、出産後も男女差を意識せずに働いてきた。経営層への足がかりは2014年に人材開発部長に就いたとき。畑違いの業務に戸惑いもあったが、「会社全体を見渡して各部門が必要とする採用活動に従事することとなり、事業構造や将来を意識する高い視座を持った」と振り返る。

JR東日本の常務取締役、伊藤敦子さん(54)は1990年入社。入社以来ほぼ一貫して財務畑を歩み、2020年6月に経営企画部長に就いた。折しもコロナ禍で経営は岐路にあった。ウィズ/アフターコロナの業績目標や取り組み課題をまとめた功績が買われ、今年取締役に昇格した。

経団連は昨年11月にまとめた「。新成長戦略」で30年までに女性役員比率30%という目標を明記した。取締役会の多様性は企業の競争力強化に欠かせないからだ。だが上場企業の女性役員比率は20年7月時点で6.2%にとどまる。個々の企業では社外取締役やヘッドハンティングで確保する手もあるが、全体の底上げには各企業で生え抜き女性役員が育つ環境が不可欠だ。

■育成は長期戦 早く手を
 女性を含むダイバーシティ(人材の多様性)が企業成長のエンジンであることは今や世界の常識だ。今年女性取締役が誕生した企業も、さらなる工夫を模索する。あいおいニッセイ同和損保は19年度から、部長クラスの女性社員が役員と会社の経営課題を語り合うメンター制度を始めた。三井住友銀行は30代後半の有望社員を選び、成長につながる業務を意図的に与える。

 ただ「圧倒的に女性人材は少ない。取締役が持続的に誕生する環境ではまだない」(三井住友銀行人事部)のも共通の悩みだ。役員登用は実績が上がるまで時間を要する。女性管理職が誕生する環境を整え、そのうえで役員候補は難易度の高い業務を意図的に与えて鍛える。そんな態勢を早期に実現しないと日本企業は世界にますます取り残される。
(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞朝刊2021年7月19日付]