がんすの誕生には諸説ある。草津にあった網節商店(廃業)が生み出したという説のほか、呉市広地区で生まれたという説もある。呉市にある三宅水産はトウガラシ入りのがんすを1950年の創業当時から作っていたという。ただいずれも当時は、かまぼこやちくわに比べると脇役的な「変わり種」だったようだ。

広島県内でもさほど知られていなかったがんす。その知名度をアップさせたのが、三宅水産の三宅清登社長の娘、結花さんの約15年前からの「がんす娘。」としての奮闘だ。

「がんす娘。」として活動する三宅水産の三宅結花さん

大きなコック帽をかぶり、客に「ありがんす」とお礼をいう試食販売は呉市や広島市のスーパーなどから引っ張りだこに。1カ月に23件の試食販売をこなしたこともあるという。

練り物需要が減るなか、がんすはフックの効いたネーミング、若者をひき付けやすい揚げ物である点など、好条件がそろっていた。広島駅ビルに出店している出野水産では、ちくわを買うのはもっぱら年配層だが、がんすは若者の購入が目立つという。

さらに大きな魅力がアレンジの自在さだ。そのまま酒のつまみになるほか、カツ丼のカツの代わりに使ってもおいしい。パンにチーズ、大葉とともにはさんでホットサンドにして食べるのもよいという。

ただ大多数の広島人にとっては「名前も知らない食べ物から、名前は知っていても食べたことのないものに昇格した段階」(三宅結花さん)。19年からがんすの製造を始めたという出野水産の出野保志社長は「産官学でタッグを組み、がんすを盛り上げていけないか」と期待を寄せる。

<マメ知識>各地のソウルフードに
 がんすに似た食べ物は広島県の周辺にも点在している。例えば島根県浜田市などでつくられる「赤てん」。魚のすり身に赤トウガラシを入れて揚げた食品で、がんすに比べて赤いのが特徴だ。広島市内のスーパーでもちょくちょくお目にかかる。
 徳島県の「フィッシュカツ」はカレー粉が入ることが多く、同県で「カツ」といえばこれを指すといわれるくらいだ。佐賀県などの「魚ロッケ」も同じく魚のすり身揚げ。似ているようで味は少しずつ違う。食べ比べてみるのも面白い。

(広島支局長 長沼俊洋)

[日本経済新聞夕刊2021年7月1日付]