福島の猪苗代そば 観光途中に名店めぐりの楽しみも
福島県猪苗代町は雄大な磐梯山と天鏡湖と呼ばれる猪苗代湖の間に広がる景勝地だ。周囲の山に降った雨水は河川や地下水を通じて町一帯を潤す。そば好きの間で評価の高い猪苗代のそばは、豊かな水と高地特有の寒暖の差が大きい気候のたまものだ。
猪苗代町振興公社が運営する「いわはし館」は町が造ったそばの実の集荷、製粉施設に併設された大型のそば店だ。週末には県外から車で訪れる客でにぎわう。
天盛りなどの定番品のほか大根おろしやみそを添えた「いわはしそば」、婚礼に提供されてきた伝統の「祝言(しゅうげん)そば」など独自のメニューも多い。そばは職人の手打ちで「のどごしや口当たりの良さを大切にしている」(小板橋晴雄主任)。
猪苗代町役場の正面にある「ラ・ネージュ」は開店前から行列ができる人気のそば店だ。もとは洋風の軽食が中心だったがメニューのひとつだった手打ちそばに人気が集まった。地元産の食材にこだわり、そばはつなぎを使わない十割そばだ。遠藤孝司代表は「そばの本来のおいしさを楽しんでもらえれば」と話す。
町の中心部には、そばと郷土料理を提供する「芳本茶寮」、幹線道路沿いで気軽に立ち寄れる「おおほり分店」など多くのそば店が集まる。
そばといえば痩せた土地の作物とのイメージもあるが、猪苗代湖畔の会津、猪苗代地方は有名な米どころだ。そんな豊かな土地で、そばは昔から縁起の良い晴れの日の食膳とされてきた歴史がある。
猪苗代のそばは製粉したとき最初に取れる一番粉を使う。口当たりが良く白くて上品な麺ができるのが特長だ。街のあちこちに製粉店があり、そば店のこだわりに応じたそば粉を提供している。
地元のそば店でつくる「猪苗代そば暖簾(のれん)の会」には12店が加盟し、そばづくりの技術の向上に取り組む。毎秋、新そばの季節に開かれる猪苗代新そば祭りには全国から多くの人が集まる。
東北の豊かな自然を体感できるのも猪苗代の特長だ。いわはし館は店を出ると正面に磐梯山を一望することができる。風情のある古民家風の構えのそば店「石筵(いしむしろ)」は猪苗代湖の北部にあり白鳥の飛来地も近い。
創作料理を提供する「三城(さんじょう)」は磐梯山の景観を楽しめるほか猪苗代出身の医学者、野口英世を顕彰する記念館のすぐ隣だ。
猪苗代では観光地を巡りながらそばの名店に立ち寄る旅を気軽に楽しむことができる。
福島県にはおいしい日本酒が多い。財務省所管の独立行政法人、酒類総合研究所による2020酒造年度の全国新酒鑑評会では、最高賞の金賞数が17銘柄で長野県と並んで全国で最多だった。福島県が全国最多となるのは8年連続だ。
受賞した酒蔵は会津を中心とした県西部が目立つ。職人の高い醸造技術とともに清涼な水が豊富なことが理由として指摘されている。
日本酒党ならそばと日本酒の組み合わせを堪能することもできそうだ。
(郡山支局長 村田和彦)
[日本経済新聞夕刊2021年6月17日付]
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