山口・下松の笠戸ヒラメ 刺し身は甘く、天ぷらふわっ
山口県下松市が市を挙げてPRする特産品が笠戸ヒラメだ。笠戸島にある市の栽培漁業センターが1983年から養殖し、ほとんどが市内で消費される。30年以上にわたって改良を重ねた餌で育てる自慢の逸品。同センターの久山裕司所長は「新型コロナウイルスが収束したら、下松に来て食べてほしい」と話す。
同センターは笠戸ヒラメの養殖のほか、他の魚種の種苗生産や周辺海域への放流などを手掛け、見学もできる。養殖場では成長促進のため緑色の発光ダイオード(LED)ライトを照射し、ヒラメが活発に泳ぎ回っている。餌をやることもできる。ヒラメの直売もしており、注文すると職員が網で捕獲し、血抜きをして渡してくれる。
笠戸ヒラメの最大の出荷先は笠戸島にある国民宿舎大城。大城は86年に市内の飲食店や宿泊施設と「笠戸ひらめを広める会」を立ち上げるなど当初から需要拡大に協力。今も夕食メニューの多くに笠戸ヒラメを取り入れている。週末などは予約の取りづらい人気宿だが、宿泊者以外も笠戸湾の絶景を望むレストランでランチが食べられる。
以前はバイキング形式だったランチは、感染対策で昨年から定食メニューになった。最も人気があるのは「笠戸ひらめ定食」。ヒラメの刺し身はほどよい弾力とほのかな甘みがあり、天ぷらはふわふわでとろけていく。3日前までに予約すれば、定食ではなく、宿泊者向けの豪華メニューを楽しむこともできる。
JR下松駅の周辺にも笠戸ヒラメを提供する飲食店が点在する。和食工房にしだは現在、感染対策で夜は予約客のみ。板前歴約50年になる店主の西田澄夫さんは笠戸ヒラメについて「天然物と違い、年間を通じて味が変わらず、身の締まりは天然物と変わらない」と話す。
同店のヒラメ料理で1番人気は刺し身。地元ではフグ刺しのように小ネギに巻いてポン酢で食べる人が多い。確かにワサビ醤油(しょうゆ)よりもヒラメの繊細なうまみを味わえる。2番人気は店で合わせたみそにつけ込んだ西京焼きで、ふっくらとした身の上品な味は癖になりそう。
笠戸ヒラメは地元以外には出荷していないが、ふるさと納税の返礼品になっており、下松市に寄付すれば送ってもらえる。加工品では下松商工会議所が2年かけて開発した「笠戸ひらめパエリアの素」が新たに返礼品に加わった 。身をほぐして作った「笠戸ひらめのコンフィ」は、地域商社やまぐちの通販サイトから購入できる。
国内の養殖ヒラメの生産量は1980年代後半から急増し、ピークとなる97年には8500トンを超えた。下松市でも最盛期には栽培漁業センターのほか、8漁業者、現ENEOS下松事業所、新笠戸ドックが養殖を手掛けた。
しかし韓国産養殖ヒラメの輸入激増で価格が急落。輸入ヒラメに多い寄生虫による食中毒が2011年に確認されたことも追い打ちになり、養殖からの撤退が相次いだ。19年の国内養殖量は2000トンに減り、下松市では栽培漁業センターだけになった。
(山口支局長 谷川健三)
[日本経済新聞夕刊2021年5月13日付]
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