産後うつから社員守る 「顧問助産師」にいつでも相談

大阪シティ信用金庫では妊娠中や出産後の悩みを助産師に相談できるサービスを導入している=大阪シティ信用金庫提供
大阪シティ信用金庫では妊娠中や出産後の悩みを助産師に相談できるサービスを導入している=大阪シティ信用金庫提供

出産後に抑うつ症状や子育てへの不安などが強くなる「産後うつ」を企業ぐるみで支援する取り組みに注目が集まる。特定の助産師と契約し、社員が相談できる体制を作る企業が出てきた。新型コロナウイルス感染症流行で「産後うつ」への不安を抱く人は増えており、需要は高まりそうだ。

産後うつは、出産後数週間から数カ月にわたって不眠や気分の落ち込みなどの抑うつ症状が続く。ホルモンバランスの変化や育児によるストレスなどが影響しているとされ、誰でもなる可能性がある。

多くの出産後の女性に「マタニティーブルー」と呼ぶ一時的な気分の落ち込みが起こるが、数日~2週間ほどで治まる。一方、産後うつは時間がたっても回復せずに生活に支障をきたす。症状が重くなると育児放棄や自殺につながるケースもあり深刻だ。育児を分担する夫が患うこともある。

大阪シティ信用金庫の社員で育児休暇中の浅井備恵さんも、産後うつではないが、不安を抱えた一人だ。1月に第2子を出産、ミルクの吐き戻しが多く悩んだ。病院を受診すべきかどうか判断がつかず不安が強まった。そこで利用したのが、同信金が契約している「顧問助産師」に相談できるサービスだ。

メールで悩みを送り、オンラインで相談。授乳法や抱き方など助産師から実践を交えて教えてもらった。浅井さんは「気軽に相談できるのがいい」と話す。

浅井さんが利用したサービスを実施するのはWith Midwife(大阪市)だ。1社につき3人以上の助産師を「顧問助産師」として配置、社員やその家族が妊娠中から復職までの間、相談できる。大阪シティは2020年10月から導入。費用は同信金が負担し、社員は無料で利用できる。導入から5カ月間の相談はメールやオンラインで約80件にのぼった。

相談内容は「死にたい」から「家事負担が大きい」までさまざまだ。本人や配偶者に産後うつの症状がある場合は、必要と判断すればカウンセリングなどを受けられる医療機関を紹介したり、家事代行サービスの利用を提案したりする。With Midwifeの岸畑聖月代表取締役は、「しんどいときに『助けて』といえる信頼関係をつくりたい」と話す。

産後うつは、放置すると長期の休業や退職などに至ることもある。同社の顧問助産師に相談できるサービスを契約している阪急阪神不動産の人事部の山崎恵さんは「社員が、妊娠・出産をきっかけに離職するのを防ぐ助けになればいい」と導入の狙いを話す。

産後うつケアに関する企業の認知度や関心は少しずつ高まっている。「顧問助産師」に相談できるこのサービスは19年11月の開始から3月までに10社が導入済み。試験的な導入や問い合わせ件数も増えているという。

コロナ下では、産後うつを防止する取り組みは特に重要だ。横浜市立大学の宮城悦子主任教授らの研究によると、産後うつになるリスクが高くなっている。

研究グループは、20年9月に妊婦約5千人と20年に出産した女性約3千人を対象に調査を実施した。解析の結果、うつのリスクが高いと判定された人の割合は約30%にのぼり、コロナ流行以前の2~3倍だった。

宮城主任教授は産後うつのリスクが高まった理由の一つに、里帰り出産や外出の自粛による周りの手助けを受けにくい状況があると指摘する。産後うつのまま適切な対処をしないと、その後うつ病に至るケースも見られるという。ただ、「早く対応すれば、症状が悪化するのを防げる」(宮城主任教授)。困ったときに専門知識を持つ助産師や保健師に手軽に相談できるような体制づくりが大事といえそうだ。

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地域オンライン相談も拡大

地方自治体などが中心となって地域ぐるみで助産師などが産後うつなどをケアする動きも目立ってきている。コロナ下で加速したオンライン利用も広がり、住んでいる場所に制約を受けずに相談できる利点があるという。

広島県は20年7月から、妊娠や出産、子育てに関する悩みを話せる「ひろしま助産師オンライン相談」を開始した。広島県助産師会に所属する助産師が相談に応じる。相談費用は広島県が負担する。20年7月~21年3月までに124件の相談を実施した。

埼玉県産婦人科医会は妊婦や出産後の母親を対象にした無料オンライン相談窓口を20年5月に始めた。21年3月までに相談があった111件のうち、9割は出産後だった。同会の平田善康会長は「妊娠期は定期的に病院に行くため、話す機会がある。産後の方が相談できず不安になるのではないか」と話す。

(下野谷涼子)

[日本経済新聞夕刊2021年4月14日付]

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