女性役員、管理職昇格が試金石に 日経など意識調査
日本経済新聞社と企業統治助言会社プロネッド(東京・港)が共同で実施した「女性社内役員調査」によると、生え抜きの女性役員はこの2年で1.6倍に増えた。多様性のロールモデルになり始めた彼女たちは昇進をどう捉え、登用に何が壁となると考えているのか。女性社内役員を対象にした意識調査から本音を拾った。
調査は今年1月初旬~3月初旬、東京証券取引所1部上場の売上高5000億円以上の主要企業320社を対象に実施。企業向けの質問票と同時に、社内役員(取締役、執行役、執行役員、監査役)の女性にも個別にアンケートを送り、86人から回答を得た。
調査から見えたのは、経験や実績に裏打ちされた自信だ。成長に役立った経験は「管理職への昇格」が最も多く、28%を占めた。「他部門への異動」(25%)、「新規事業立ち上げ」(14%)が続いた。
組織運営を学ぶうえで管理職への昇格は大きな試金石となるようだ。「入社以来、リポート作成の仕事をしてきたが、30代後半に部長職となったことが大きな転機になった」(取締役)。「職位者となり権限と責任の重さを知り、組織マネジメントの重要性を痛感した」(取締役兼執行役員)などの声があった。
新規事業立ち上げも経営者としての力量を伸ばす絶好の機会といえる。ある執行役員は「IT(情報技術)サービスの立ち上げで中間管理職として社内の意思決定をまとめた」という経験が成長につながった、と振り返る。
プロネッドの酒井功社長は「責任と権限のあるポストに就くことの重みを本人たちは実感している。会社も男性と同じように女性に機会を与えることが重要」と指摘する。
役員に就けた理由は「経験」が30%で最多。2番目に「実績」(23%)、3番目に「女性だから」(16%)が挙がった。一部の企業では今も女性に専門的仕事を任せたり、同一部署に長くとどめたりする人事を行う例が少なくない。幅広い経験を若い頃から積ませることが重要になる。
今回、女性社内役員向けの意識調査と並行して行った企業アンケートによると、社内役員に占める女性比率は平均7%だった。役員に昇進したとしても、男性優位の日本企業の中では少数派であることは変わらない。女性であることを理由に差別的な扱いを受けたり、差別を見聞きしたりした経験があるか聞いたところ、70%が「ある」と答えた。
1986年の男女雇用機会均等法施行以来、性別による待遇差別は形式上はなくなった。だが「会議に参加させてもらえなかった」(執行役員)、「総合職入社だが、男性の補佐的な仕事が多かった」(執行役)など業務上の不利益を経験した人は多い。
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は根強い。評価、業務、制度など様々な面で「見えない壁」は今も残る。回答には「女性だから実力がなくても会社のお飾りとして取締役になったといわれた」(取締役)という声もあった。職場は無意識の偏見を克服できているか。経営者は目をこらすことが必要だ。
女性社内役員は女性が役員になる上での障害をどう捉えているのか。調査では「家事や育児の負担が女性に偏りがちな社会構造」、「女性本人の自分に対する自信のなさ」、「女性に成長の機会が十分与えられていない」がそれぞれ23%と上位にきた。
女性役員を増やすために会社に望む施策を聞くと「社外とのネットワークづくりの場を提供」(19%)、「役員に必要な知識の教育・研修」(19%)、「子会社や関連会社の役員を経験させる」(17%)などが挙がった。
さらに自己研さんしたいテーマは「経理・財務の知識」(26%)、「人事や事業などの管理能力」(19%)が多く、「リーダーシップ」(3%)は少ない。多くはカリスマ的な指導者とは一線を画す経営者像を描いているようだ。
企業アンケートの結果と大きく異なったのが将来の女性役員比率に関する質問だ。経団連は昨年11月、「。新成長戦略」で役員の女性比率を30年までに30%以上に高める目標を打ち出した。「自社で達成可能」と答えた企業は21%にとどまったのに対し、女性役員たちでは約2倍の43%が「達成可能」(達成済みと条件付き含む)と答えた。
「自分が経営トップに就任する可能性がある」と答えた女性は12%いた。プロネッドの酒井社長は「大企業ではトップに至る層まで女性活躍推進が浸透してきた。現役の女性役員たちの意識ではガラスの天井は予想以上に分厚くない」とみる。
企業統治改革でもダイバーシティーが重要課題になっている。金融庁と東京証券取引所は近く改訂する企業の行動原則「コーポレートガバナンス・コード」で取締役から管理職まで、女性のほか中途採用者、外国人、若手の登用を進めるよう求める方針だ。
女性登用の数値目標設定は議論が分かれる。数合わせで形式的に女性を登用すれば、企業の活力を損なうおそれがある。早稲田大の入山章栄教授は「新卒一括採用やメンバーシップ型雇用、画一的な評価制度など古い日本的システムを一緒に変えなければイノベーションを起こせない」と指摘する。日本企業が既存の経営手法を徹底して見直した先にダイバーシティー社会が広がる。
(木ノ内敏久)
[日本経済新聞朝刊2021年3月22日付]
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