明治以降の企業家も高い志があり、すごいなと思います。三菱財閥の岩崎弥太郎をはじめいろんな人物について読みました。城山三郎さんの小説は一番好きで、主なものはすべて読みましたけど、渋沢栄一を書いた『雄気堂々』をまず挙げたいですね。その中に出てくる栄一の言葉がいい。「機械を運転しているとカスがたまるように、人間もよく働いていれば、金がたまる」。「一身一家の富むこと」を考えるのはいかがなものかとも述べています。

城山さんの『鼠』も印象的な作品です。三井、三菱と並ぶ勢いだった鈴木商店は、米の買い占めなどで元凶とされ、昭和恐慌で破たんします。大番頭の金子直吉は事業に専念して世評を気にしない廉直な人でしたが、それが仇(あだ)になりました。私も正しいことをしていれば世の中は認めてくれると思っていたのですが、この本を読んで、広報を少し勉強するようになりました。

30年前、母親と弟に経営の実権を奪われた時、読書に救われて復権する。

母親が社長だったのですが、実際に経営していたのは私でした。それが突然、窓際族みたいにされて、もう嫌になって本を読みふけりました。

例えば、城山さんの「素描・中山素平」という副題が付く『運を天に任すなんて』です。中山さんは日本興業銀行(現みずほ銀行)の頭取になって大活躍された方です。しかし銀行の中で、ずいぶん干される経験をしながら頭角を現した人なんだなと思いました。

小島直記さんの『逆境を愛する男たち』や『出世を急がぬ男たち』『伝記に学ぶ人間学』なども読みました。この手のものが多かったようですね。

こうした読書で自分を見つめ直しました。トップダウンの行き過ぎが部下の離反を招いたわけで、結局、自分が悪かったと悟りました。思えば本に助けられて今があるようなものです。

経営に関してはドラッカーの著作に学びました。『経営者の条件』にある、頭を使って仕事をする人はすべて知的労働者で経営者になり得るとの考えは、私の経営の柱になっています。

本で勉強したものを実践して、時には失敗もして生きた知識として身に付ける。本は人生の教科書です。

(聞き手は森一夫)

[日本経済新聞朝刊2021年3月6日付]