ガルブレイスが予測した大企業支配 歯止めはかかるか

根井雅弘著『今こそ読みたいガルブレイス』(左)と『英語原典で読むシュンペーター』
根井雅弘著『今こそ読みたいガルブレイス』(左)と『英語原典で読むシュンペーター』

巨大IT(情報技術)企業による市場の独占はなぜ進み、どんな弊害があるのか。経済学や経済思想の古典や名著を長年にわたって読み込んできた京都大学の根井雅弘教授は、大企業に焦点を当てたジョン・ケネス・ガルブレイスとヨーゼフ・シュンペーターの著作から、様々な含意を引き出している。

製品の売れ残りを回避したい大企業の掌中には、「管理価格」「消費者需要の操作」「内部金融化」という手段がある――。根井氏は『今こそ読みたいガルブレイス』(インターナショナル新書、2021年2月)で、ガルブレイスの『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『経済学と公共目的』の3部作の要点を紹介している。華麗な文体に加え、生産者が宣伝や販売術によって作り出す欲望に消費者が依存する「依存効果」、大企業の内部の専門家集団を指す「テクノストラクチュア」といった造語は代表作をさらに記憶に残る存在にしたと解説する。

ただ、「では具体的に何をどうすればよいのかという提言はほとんどなかった」。例えば『経済学と公共目的』では、現代の資本主義は、大企業が支配力や交渉力を行使する「計画化体制」と、多数の小企業が競争する「市場体制」からなり、前者は後者の犠牲のもとに不均等に発展するとの見通しを披露するにとどまっている。大企業の政治力を抑制する改革案として信条、女性、国家の3つの解放を提唱してはいるが、「理想主義的に過ぎて、実現は難しい」。

根井氏は2020年がシュンペーターの没後70年に当たるのを意識して執筆した『英語原典で読むシュンペーター』(白水社、21年2月)で、「資本主義の不安定性」と題する論文(1928年)を取り上げている。論文では、代表作『経済発展の理論』の鍵概念であるイノベーションが、「競争的な資本主義」から「トラスト化された資本主義」に移行する過程で「大部分は個々の人々から独立した、現存の大企業の単位内で進行する。進歩は『自動化』され、ますます非人格的で、ますますリーダーシップと個人的イニシアチブの問題ではなくなっていく」と変質する姿を描いている。ガルブレイスは米ハーバード大学に在籍していた1930年代に中心人物だったシュンペーターから色々な視点を学んだと根井氏はみる。現代の巨大IT企業は、そんな2人の巨人でさえ想像できなかった世界を作り上げつつある。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2021年2月27日付]

今こそ読みたいガルブレイス (インターナショナル新書)

著者 : 根井 雅弘
出版 : 集英社インターナショナル
価格 : 880 円(税込み)

英語原典で読むシュンペーター

著者 : 根井 雅弘
出版 : 白水社
価格 : 2,750 円(税込み)

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