30歳代は会社の中枢である人事部にほぼ10年配属された。おのずとマネジメント本を読みあさった。

あらゆるビジネスパーソンが突き当たる試練。それは他人との適切なコミュニケーションの取り方ですよね。

相手を知り、相手のニーズと自分の目的達成を周到に両立させる。『人を動かす』はそうしたクリティカルなコミュニケーションについて、人間性の根本に触れつつ解説してくれます。

「プロとしての専門性×コミュニケーション=成果」。ポイントは掛け算であること。コミュニケーション能力がゼロだとパフォーマンスもゼロに陥る。だから「対話にやりすぎはないぞ」。社員に訴える私の経営哲学です。

幾多のドラッカー本の中から推したいのは『マネジメント 基本と原則』。10年前のベストセラー小説“もしドラ”の原典にもなった総括本です。「事業とは顧客の創造である」「経営とは成果がすべてである」――経営の本質を喝破しています。

東京海上は国際展開が最も進んだ大手金融機関だが、意外にも自身は海外に駐在した経験がない。

だからこそ、常務になった2016年春から1年間の米コロンビア大学留学は貴重な機会でした。スティグリッツは指導教官の一人。リーマン危機の深層に迫った『フリーフォール』は必死に原書で読み込みました。

世界に拡散した未曽有の経済混乱をなぜ防げなかったのか。甚大な犠牲から何を学ぶのか――。旧来の経済学にも矛先を向ける気鋭の書です。危機下の財政運営のありようにも言及しており、深く考えさせられます。

『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』はうちの役員連中にも薦めています。変化が激しく課題が噴出する現在、経営の神髄とは様々なステークホルダーの利益や幸福を的確に融合すること。本書はその道筋をナビゲートしてくれる。ホールフーズ・マーケットやイケアなど「意識の高さ」を成長につなげる国際優良企業の戦略を深掘りします。

最後に紹介するのが『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』。かつて川崎駅前にあった百貨店、小美屋(こみや)の経営者だった父が、私が社会に出るとき贈ってくれました。

いつも多忙で、おっかない人でしたが、この本には人生の成長段階に応じて的を射たアドバイスがつづられる。コロナ下の厳しい就職活動を乗り切ってきた今春の新社会人のみなさんに、ぜひ手にとってほしい一冊です。

(聞き手はNIKKEI Financial編集長 佐藤大和)

[日本経済新聞朝刊2021年1月23日付]