まず衝撃を受けたのは『イノベーションのジレンマ』です。持続的イノベーションと破壊的イノベーションと2種類あって、強い商品を持つ優良企業は機能を増すなど改良を重ねる持続的イノベーションを進める傾向がある。

少しでもいい商品を出そうと一生懸命やるのは間違っていません。ところが常識を覆す破壊的イノベーションによる商品が現れると、シェアを一気に奪われるというのですから大変です。

ではどうするか。イノベーションはセンスがよくてひらめきがある天才がやるものと思いがちです。しかしドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読むと、過去の事例を調べた結果、普通の企業活動によって可能だと書いてあるのです。この2冊を読んで、考えが固まり、気が楽になりました。

4年くらいかけて開発した、野菜の摂取量が手のひらを載せるだけで測れる「ベジチェック」というセンサーは画期的な成果の一つです。これから大いに広めていく方針です。

興味を持つ範囲は広く、徹底して調べ上げた著作に手が伸びる。

社会的事件にしても何にしても心に引っかかると、その時、何が起きたのか事実を知りたい。それに応えてくれる本がやはり強く印象に残ります。

例えば地下鉄サリン事件は、あの日、私も出社していて忘れられません。村上春樹さんの『アンダーグラウンド』は、地下鉄サリン事件で被害に遭った60人あまりの方々に取材して、全体像を追求したノンフィクションです。

『死の淵を見た男』は、東日本大震災の時に福島第1原子力発電所の運転員たちが危機をどう切り抜けたかに迫っています。全共闘の学生運動は私が子供のころでしたが、『東大落城』を書店で見つけて、あの時のことだなと記憶がよみがえって読みました。

立花隆さんの『臨死体験』やソ連機による大韓航空機撃墜事件の真相を探った柳田邦男さんの『撃墜』は、事実を一つひとつ粘り強く検証していく姿勢がすごいですね。

ただし未解明の部分は残ります。それを明確にすることも重要です。研究も同じで、仮説、検証を繰り返して事実に接近します。経営でも何が事実なのかの見極めが大事です。

(聞き手は森一夫)

[日本経済新聞朝刊2021年1月9日付]