不況回避へ最善の道を探る 立正大・吉川洋学長の挑戦

吉川洋著『マクロ経済学の再構築』(写真中央)は、50年にわたる研究の集大成といえる
吉川洋著『マクロ経済学の再構築』(写真中央)は、50年にわたる研究の集大成といえる

過去40年間、多くの経済学者は家計や企業の行動を分析するミクロ経済学と、マクロの経済現象を分析するマクロ経済学の「統合」に情熱を注いできた。しかし、「代表的な消費者」が効用(満足度)をできる限り大きくするために行動するという仮定から出発し、ミクロの動きを「相似拡大」してマクロの現象を説明しようとする議論は誤りだ――。

立正大学学長の吉川洋氏は、50年にのぼる研究の集大成といえる近著『マクロ経済学の再構築』(2020年8月、岩波書店)で、現在の主流である「ミクロ的に基礎づけられた新古典派のマクロ経済学」に異議を唱える。主流派の理論によると、市場は価格の変動を通じてやがて「均衡点」に落ち着くのだから、不況や失業は一時の現象にすぎず、政府が介入する必要はない。コロナショックによる景気後退を食い止めようと各国が積極的に金融・財政政策を打ち出している現状をみると、いかにも現実離れしているが、主流派の根幹にある考え方は変わっていない。

なぜ、主流派は変われないのか。それ以外の方法論を知らないからだと吉川氏は主張し、「統計物理学」をマクロ経済学に応用するアプローチを提唱する。物理学の世界はミクロ現象を分析するニュートン力学と、マクロ現象を対象とする統計物理学に枝分かれした。経済学者たちは前者だけを模範とし、後者を正面から取り上げなかったという。吉川氏は、統計物理学の経済学への応用に単独で取り組んでいた青木正直氏(故人、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授)に協力を呼びかけ、2000年ごろから統計物理学を活用したマクロモデルを提示してきた。

「社会悪」である不況を回避するため最善の努力が払われなければならない――。吉川氏は30代のときに出版した『マクロ経済学研究』(84年、東京大学出版会)でこう記した。不況の原因を需要不足に求める「有効需要の理論」を唱えたケインズ経済学と、失業は労働者の合理的な行動の結果として生まれる現象だとする「古典派経済学」とを対比し、前者を支持している。さらに、『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』(09年、ダイヤモンド社)では、「イノベーションによる需要の創出」という概念を軸に、ケインズとシュンペーターの理論を統合できるとの持論を展開した。近著では、ケインズ、シュンペーター、統計物理学という絵の具を使い、マクロ経済学の新しい枠組みを鮮やかに描き切っている。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2020年11月28日付]

マクロ経済学の再構築――ケインズとシュンペーター

著者 : 吉川 洋
出版 : 岩波書店
価格 : 8,800 円(税込み)

マクロ経済学研究

著者 : 吉川 洋
出版 : 東京大学出版会
価格 : 1,650 円(税込み)

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