認知症ケアする家族 コロナで増す負担、生活どう守る
認知症の人とその家族が新型コロナウイルスへの対応に苦慮している。生活環境の変化に弱いとされる認知症の人は心が不安定になりがち。感染リスクを避けようと外出を自粛すれば、身体機能の低下を招き、症状を進行させる恐れもある。介護する家族の負担も増している。コロナ禍での暮らしに、認知症の人と家族はどう対処していけばいいのだろうか。
「介護する側も、される側も苦しい」――。11月上旬、認知症の人と家族の会東京都支部が開いた「会員のつどい」。参加者はコロナ禍で認知症の家族を介護する難しさを語り合っていた。
文京区在住の女性(66)は介護施設に入所する認知症の夫との面会をリモートだけに制限されている。画面に呼びかけても夫の反応はほとんどない。認知症の人へのケアは接触が大事とされるが、手を握ったり、足をさすったりもできず、もどかしい。症状が進まないか不安も募る。
同支部が9月にまとめた家族らへの調査でも7割がコロナ禍で変化があったと回答した。「生活の張りを失った」「体力が落ちた」といった声も。同支部の大野教子代表は「コロナの影響が顕著に表れている」と話す。
新宿区在住の伊藤照美さん(58)は要介護5の夫を自宅で介護。感染を防ぐため、デイサービスの利用も控えている。夫はほぼ自宅にこもりきりの生活で筋力が落ち、何かにつかまらないと歩けない状態になったという。「それまで普通にできていたことができなくなった」と嘆く。
介護する側の悩みは尽きない。認知症の進行を少しでも抑えるにはどうすればいいのか。認知症専門医、あしかりクリニック(東京・中野)の芦刈伊世子院長は「会話、運動、楽しみという3つの要素が欠かせない」と語る。
そうはいってもデイサービスや訪問介護・リハビリの自粛といった対応を余儀なくされる例は多い。施設介護でも入所者同士が密にならないようレクリエーションを取りやめるところが目立つ。コロナ禍が芦刈氏の言う3つの要素を失わせているのが実情だ。
総合東京病院(同)の羽生春夫・認知症疾患研究センター長は「認知症の人は感染リスクもそうだが、外出自粛による身体機能低下の方も切実」と指摘する。筋力が低下すれば転倒しやすくなり、認知機能も衰えるという。マスク着用や手洗いを促しても、拒否されたり、理解されなかったりしかねない。
密閉、密集、密接の3密を避けて体を動かすため、羽生氏は「公園などで1日、30~40分の散歩をするのが良い」と勧める。周囲の人と話す機会があるデイサービスも、施設が感染防止策に十分取り組んでいるか確認する必要はあるが、「できるだけ利用するのが望ましい」(芦刈氏)。
外出が不安であれば、自宅でネット配信の動画をみながら体を動かす方法もある。室内で楽しめるカラオケやマージャンといったゲームをしたり、体操で体を動かしたりするのも良いという。
日常の生活リズムが崩れれば、認知症の人にとってもストレスや不安感は増す。羽生氏は「認知症の人がなるべくこれまで通りの生活ができるように、介護する側が配慮することが重要」と強調する。
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同じ悩み共有、リモートでも
コロナ禍で介護する側の負担も増している。認知症の人が自宅にいる時間が増えており、介護者が目配りせざるを得ない。身体機能が低下して症状が進行すれば、ケアの負荷はより高まる。介護者にストレスがたまると、介護相手にきつくあたってしまうなど悪影響が出かねない。
ストレスを和らげる方法で考えられるのが同じ悩みを抱える人と話すこと。夫を介護中の伊藤さんはビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」などを利用し、介護中の知人と連絡を取り合う。「直接会うのが難しいだけに、リモートで悩みを打ち明けられるのはありがたい」と伊藤さん。
支援団体で情報を集めたり、アドバイスを受けたりするのも役に立つ。「ひとりで抱え込まないことが大切」(認知症の人と家族の会東京都支部の大野代表)だ。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2020年11月25日付]
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