英国、料理キット6000円 自宅でミシュランの味
「ロブスター・ビスクはコンロで沸騰するまで温めます。ここで泡立たせると盛り付けが映えますね」。ミシュランの星付きレストランのオーナーシェフ、ジェフ・ギャルビンさんが動画で説明する。外食禁止のロックダウン(都市封鎖)のなか、自宅調理キットを販売するシェフの1人だ。
英イングランド地方は5日から2回目のロックダウンに入った。政府が飲食店にテークアウトの営業を認めたため、今まで「出前」など考えなかった高級店も収入を得るためにテークアウトや宅配を始めた。ロンドンを中心にレストランを展開するギャルビン・レストラン・グループはあらかじめ厨房で調理され、ミシュランの味を自宅で再現できるパン付きの3コースセットを開発した。
価格は45ポンド(約6千円)。送料は別だが、レストランで食べる場合はメインだけで40ポンド近くするので割安だ。売り上げは通常の2割ほどに減るが、ギャルビンさんは「お客さんとのつながりを保ちたいし、ブランドを発信できる」と話す。
食材はいつもの取引先から調達し、定番メニューも同じ。違うのは素人が家庭の台所でつくれるよう工夫したことだ。本来ならフライパンで焼き色を付けるハイランド牛のステーキはオーブンで9分温めるだけ。「毎日の自炊にも飽きているだろうし、なるべく簡単にできるように」と事前調理にこだわった。
外食業界にとってロックダウンは過酷だ。業界団体UKホスピタリティによると、最初のロックダウンが始まった3月から4月にかけて飲食店を含むホスピタリティ業の売り上げは9割減。6月の調査では飲食店経営者の約3割が一部店舗の廃業を検討した。コロナ禍が長引くなか、例年なら飲食店にとって稼ぎ時となるクリスマスシーズンの営業が懸念される。
ミシュランの味を記者も試してみた。手料理にうんざりしている舌にプロの味付けは格別だ。しかし食べている場所はいつもの部屋で使うのは同じ食器。味は再現できてもレストランの雰囲気にはほど遠い。コロナが過ぎ去り、気軽に外食を楽しめる日が待ち遠しい。
(ロンドン=今出川リアノン)
[日経MJ 2020年11月23日付]
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