ゲノムに書きこまれた長い歴史から生命を考える「生命誌」を提唱し、長年、研究を続けてきた。
『いま自然をどうみるか』は、1980年代、生命誌を考えていたころに読んだ本です。人が自然をどうとらえてきたか。その歴史とこれからを丁寧に語っています。著者は反原発で知られる人ですが、賛成反対いずれの立場であっても、基本から考えるこうした姿勢は大切だと感じます。
小さなものを見続けると、本質的なものが見えてきます。ダーウィンは生涯かけてミミズを観察し『ミミズと土』にまとめました。聴覚はあるのか、葉っぱをどう引っ張るのか。こうした積み重ねができる人だから、進化論のような大きな研究ができたのでしょう。
人間もほかのすべての生きものも38億年前、同じ祖先から始まりました。『可能世界と現実世界』の著者は遺伝子の研究でノーベル賞をとった人です。生きものの性質として、予測不能で、ありあわせの寄せ集めで、たまたまできたもの、の3つをあげています。完璧な生きものなどいない。人間も完璧ではない。みな同じ生きものの仲間。だからこそ、おもしろいのです。
東日本大震災のあと、科学者はどうあるべきか悩みました。そのとき読んだのが宮沢賢治です。自然のこと、技術のこと、生き方のこと……。読むたびに新たな気づきがあります。それこそが本なのでしょう。
(聞き手は編集委員 辻本浩子)
[日本経済新聞朝刊2020年11月21日付]