16~19年の4年間に医療機関から「調査対象に当たるか」と助言を依頼され、センター合議で「事故として報告を推奨する」と回答したのは計144件。このうち20年1月時点で一部検討中を含めて47件は未報告のままだ。「報告推奨」か意見が分かれた69件では6割の42件が報告されていない。遺族側に調査対象とするかの判断結果を知らせる仕組みもない。

制度創設前には報告件数は「年1300~2千件」と推測されたが、実際は年400件弱が続く。制度創設から関わってきた同機構の木村壮介常務理事は「医療界の自律性が制度の根幹。第三者機関が調査を強制する形は望ましくない。強制すれば相談さえなくなってしまう」と苦悩する。

医療情報の公開・開示を求める市民の会は9月、制度開始5年を機に制度改善を求める要望書を厚生労働省に提出した。

要望書では遺族などの相談を受けて同機構がセンター合議を行った場合は、結果を遺族らに伝えることを盛り込んだ。報告を推奨したのに調査しなかった場合、機構が指導・勧告し、応じない医療機関名を公表できるようにすることも求めた。

医療の質・安全学会の長尾能雅理事長(名古屋大病院副院長)は「こうした要望書が出る前に医療界、行政は患者中心の視点で課題を考え、あるべき姿に近づける使命があったはず」と省みる。制度創設から5年を経ても「何を医療事故とするのか」という判断や調査手法が標準化されていないことが最大の課題と指摘し、「医療に事故やトラブルが避けられないならば、優先的に対策する内容を患者と医療者が一体となって考えるべきだ」と話す。

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医療機関から警察への届け出は減少

2015年10月に医療事故調査制度が導入され、医療機関が警察に医療事故を届け出る件数は大幅に減少した。14年には88件だったが、15年に47件と半減。16年以降も20~40件台で推移する。警察も制度による調査を尊重しており、事実上の受け皿になっている。

一方、遺族などからの警察への届け出は、制度開始前の14年は40件あったが、15年は14件に減った。18年は30件、19年は25件とやや増えつつある。

09年に始まった産科医療補償制度では、出産で乳児が重度の脳性まひになった場合、医療機関からの届け出を受け、第三者機関の日本医療機能評価機構(東京)が原因究明し、再発防止策を提言する。問題を繰り返す医師や医療機関には個別指導する。家族には保険方式で計3千万円が補償される。分娩機関(約3200施設)の99.9%が加入している。

医療訴訟の提訴は年700件超が続く中、約100件を占めた産婦人科関連の提訴は制度導入で半減した。医療情報の公開・開示を求める市民の会の勝村さんは「きちんと原因究明すれば患者・家族とのトラブルは減る。積極的に調査すべきだ」と強調する。

(社会保障エディター 前村聡)

[日本経済新聞朝刊2020年10月26日付]

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