「世界のプリマ」吉田都 日本随一のバレエ団へ改革

2016年の新国立劇場バレエ団の「ドン・キホーテ」=瀬戸 秀美撮影
2016年の新国立劇場バレエ団の「ドン・キホーテ」=瀬戸 秀美撮影

英国ロイヤル・バレエ団などで活躍した吉田都が新国立劇場(東京・渋谷)の舞踊芸術監督に就いた。国際的に評価されるバレリーナがいよいよ日本のバレエ団を率いる。抱負を聞いた。

「皆、プロ意識はしっかりあると感心しました。すぐにでも踊れる身体で戻ってきましたから」

新国立劇場バレエ団は新型コロナウイルスの感染拡大により約2カ月活動を自粛していた。6月にダンサー約70人と再会したときの感慨をこう語る。舞踊芸術監督の主要な責務の一つが、同バレエ団の運営だ。

バレエ団は1997年秋、新国立劇場のオープンと同時に活動を開始した。日本で初めての、国立劇場所属のバレエ団である。開場記念公演では、自らも英国から招かれて「眠れる森の美女」を踊ったが、当時に比べると「全体に統一感があって、技術は世界に引けを取らない。すてきなバレエ団に成長しました」と評価する。一方で、次のステップに進むために必要なものがあると感じている。

「プロとしてはお客様に何かを伝え、感動してもらうことが大事。例えば前の世代のスターの踊りは少々雑でも、観客を引きつける力がありますよね。新国立劇場バレエ団のダンサーも、ちょっとしたきっかけで、それぞれの個性や魅力をもっと発揮できるようになると思うのです」

世界から指導者

現役時代、知己を得た優秀な指導者を世界各地から招く計画を立てている。「この夏は、国内の先生に何人かレッスンに来ていただきました。英国ロイヤル・バレエ団でもよくやることですが、いつもと違う指導は、いい刺激になる」

吉田都

自らもアドバイスに熱を入れる。10月23日に新国立劇場で始まる公演「ドン・キホーテ」から芸術監督就任後の公演が本格的に始まるが、リハーサルを見ては「下半身は強いけれど、上半身の柔らかさや表現力がもう少し」「一度、基礎を見直してもいい」など、気づくことがあるという。

ついつい厳しい見方をしてしまうのは、新国立劇場バレエ団が「飛び抜けた存在」にならねばと考えるからだ。民間のバレエ教室が多い日本でようやく誕生した、国立劇場所属のバレエ団である。欧州の著名な団体のように地域のトップにならねばならない。「日本ではまだバレエを『発表会』でしか見たことのない方も多いと思いますが、本当のプロフェッショナルな公演を知っていただきたい」

日本随一の団体になるには体制や環境を整える必要もある。ダンサーへの報酬が年俸制でない、付属のバレエ学校がないといったように海外の一流団体に比べると足りないものは多い。恩師である英国の振付家ピーター・ライトには「そろそろ日本のバレエのスタイルを作るべきだ」と進言された。そのためにも、幼い頃から同じ教育を受ける学校が必要だと考える。

オリジナル増やす

コロナ禍では「バレエ団のオリジナル作品を増やさなくては」とも感じた。海外の作品ばかりでは、人の行き来が難しくなったときに上演できるものがなくなるかもしれない。振付家の育成も急務となる。

いずれも資金がかかるが「チケット収入以外にも、バレエ団がお金を生み出せる方法を探したい」。例えば、グッズ販売や配信事業などを想定する。10月の「ドン・キホーテ」では、NHKグループのオンライン事業「チコちゃんといっしょに課外授業」と組み、リハーサル風景や公演などを有料配信している。

2019年夏の現役引退公演は超満員で、ドキュメンタリー番組も作られた。人気と知名度の高い自らが前に出て、観客と交流する用意もある。コロナ禍での制限はあるが「リハーサルを公開したり、終演後にお客様とお話ししたり。そうしたこともやりたい」。

夢は広がるが、まずはできることから。最近は「ダンサーのためにトレーニングマシンを1台、入れられたことがうれしくて」。小さなことから一つずつ、改革を進めている。

(編集委員 瀬崎久見子)

[日本経済新聞夕刊2020年10月19日付]

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