オンラインバスツアー 90分で名所巡り、ズームで交流
コロナ禍で遠出を控えイライラを募らせていると、自宅で楽しめるオンラインツアーへの参加を勧められた。五感で味わうのが旅の醍醐味では? 半信半疑で「出かけた」。
まず、参加したのは琴平バス(香川県琴平町)のツアーだ。今春からパソコンやスマートフォンを活用し、日本各地をバスで観光する商品を発売。現在約10コースを扱う。
空きのあった琴平周辺を巡るツアーを予約する。代金は1人4980円。東京から琴平までの往復の交通費(新幹線利用)と宿泊代が合計5万円程度かかるのに比べて10分の1だ。
出発日の数日前、ガイド冊子や土産品など「ツアーパッケージ」が自宅に届いた。そのうちの一つ「讃岐巻物うどん」は当日調理するので、まな板と包丁を用意するようにとの注意書きがあった。気づけば旅行気分に浸っていた。
当日の出発時間は午前10時。オンライン会議システム「Zoom」につなぎ、高松空港に集合した。「ようこそ、おはようございます」。画面はバス車内に替わり、ガイドの山本紗希さんが笑顔で迎えてくれた。事前に届いた紙製のシートベルトを装着し、バスに乗った気分が高まる。
ツアーには東北や九州などから9組13人が参加した。画面上に映る同乗者と簡単な自己紹介。自宅だからマスクを付けなくてもいい。記者はTシャツ姿だったが、妻に促され襟付きシャツに着替える。最低限の身だしなみは必要なのかも、と少し反省した。
移動中は地元にちなんだクイズ大会などが開かれ、あっという間に到着する。現地ガイドの案内により、1835年に建てられた日本最古の芝居小屋で国の重要文化財、旧金毘羅大芝居「金丸座」などをライブ映像を見ながら歩く(気分になる)。
最後は「中野うどん学校」に到着。元気な"おばちゃん"先生から、讃岐うどんの歴史や作り方を教わる。先生が小麦粉を足踏みしたり、もみ続けたりする作業では、手拍子を打ち参加していた。
ここで自宅に届いた巻物うどんの出番だ。巻物とは切ってうどんにする前のもの。先生の指示に合わせ参加者全員が包丁で細く切る。「きれいに切れてるねぇ」。ネットを介した賛辞がうれしい。その後、解散。あっという間に90分の旅が終わった。
千葉県から夫婦で参加したよしちゃん(ニックネーム)は「妻の予約で嫌々の参加だったが、予想を裏切られた」と顔をほころばせる。四国に旅行する予定だったが、コロナ禍で断念。「リアルな情報を知ることで香川への興味が膨らんだ」(よしちゃん)
オンライン海外旅行にも参加した。阪急交通社の「おうち旅」。アフリカのサファリ、アラスカのオーロラ観賞――。商品名を見ただけでわくわくするプランが並ぶなか、近くて行ってみたいと考えていた台湾ツアーを選んだ。料金は1人6980円、90分。パイナップル味のあんが入った焼き菓子や布製バッグなどのお土産付きで、出発前に自宅にどっさり届いた。
同社も「Zoom」を使い、パソコン画面で国内のとある空港に集合する。現地ではガイドがバスに乗り込み台北、九份(きゅうふん)などを生中継。当日は晴天で、九份の高台にあるレストランから見下ろす景色や料理からのぼる湯気が映されると、「きれい」、「おいしそう、値段はいくら?」など、チャットでやり取りされ盛り上がった。
国内、海外と1つずつ参加した。いずれも90分の行程で参加前は短いと思ったが、パソコン画面を集中して見るにはいい時間と感じた。映像はガイド視線で映されたもの。興味がある場所などを時間をかけて探求することはできないが、リアルのバスツアーなどに参加しても同じだろう。
国の観光需要喚起策「Go To トラベル」が始まり、10月からは東京発着分も追加された。ただ、コロナ禍は収束の兆しが見えず、遠出をためらう人は多い。オンラインツアーは旅行業約款が適用されないため「Go To トラベル」の対象外だが、気分転換や目的地探しなどにはもってこいかもしれない。
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若い世代・親子連れに人気
オンラインツアーは観光地の映像を流し、画面を通じ参加者が交流できる仕組みだ。旅行会社が需要減を補うために開発した商品だが、阪急交通社総合戦略室課長の上枝統志さんは「若い世代の需要をつかめた」と話す。通常のツアー客はシニア層が大半だが、オンラインツアーは30代以下が3~4割を占めることもあるという。
親子連れも目立つ。横浜市在住の孔井真梨子さんは愛知県に住む両親と琴平バス、阪急交通社のツアーに参加、「親の様子も分かり、会話のきっかけにもなる」と話す。市場に詳しい博報堂統合プラニング局の中川悠さんは「時間を共有できる会話が魅力。秘境など行きにくい場所を訪ねる商品に需要が見込める」とみる。
(佐々木聖)
[NIKKEIプラス1 2020年10月10日付]
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