働き盛り襲う「炎症性腸疾患」 ぶり返す下痢や血便

田中博さんは1時間単位の有休取得などの制度を使って仕事と治療を両立する
田中博さんは1時間単位の有休取得などの制度を使って仕事と治療を両立する

消化器に炎症が起きる炎症性腸疾患(IBD)という難病を抱える人が働き盛りの世代に増えている。安倍晋三前首相の辞任理由になった潰瘍性大腸炎もこの一つで、症状が治まったり、ぶり返したりを繰り返す。治療と仕事の両立を目指している人が多く、一人ひとりの症状や状況に応じた周囲の理解が求められている。

「症状が落ち着いているから、今は無理に検査を受けるつもりはない」

「病歴が10年を超え、がんのリスクが高まるので、年に1回の検査は欠かさない」

9月下旬、IBDの患者会「TOKYO・IBD」が開催したオンライン交流会。新型コロナウイルスの感染が広がる中での通院や定期検査について話題が及ぶと、参加者は検査の頻度や主治医とのやり取り方法などを情報交換した。会長の田中博さんは「同じ病気でも症状が重い人から軽い人まで様々。初めて交流会に参加する患者や家族は驚く人が多い」と話す。

IBDは潰瘍性大腸炎とクローン病のことを指す総称。潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に、クローン病は口から肛門までの全消化管のなかで主に小腸や大腸に慢性の炎症や潰瘍が生じる原因不明の病気。どちらも下痢や腹痛、血便などが主な症状で、国が医療費を助成する指定難病の対象だ。

2016年度末時点の難病患者(約98万人)のうち、潰瘍性大腸炎が約16万人、クローン病が約4万人とIBDが最も多い。助成を受けていない人も含むIBDの患者推計は約29万人に達し、およそ国民400人に1人となる計算だ。

一口に潰瘍性大腸炎といっても、どのくらいの範囲に炎症ができるかは人によって違う。直腸のみの「直腸炎型」、大腸の左半分が炎症する「左側大腸炎型」、大腸全体に広がる「全大腸炎型」の大きく3つがある。

IBDは完治が難しく、いったん炎症が治まってもぶり返すことが多い。この周期も人によって差があり、うまく薬でコントロールしながら何十年も病気と付き合っている人もいる。20代で発症する人が多く、働き盛りに多い疾患だ。患者の6割が就業しているとのデータもあり、仕事と治療の両立が課題になる。

患者歴30年に及ぶTOKYO・IBDの田中会長は地元の市役所に勤務している。体調が悪くなりがちな朝の出勤時は、1時間単位で取得できる有給休暇を使って出勤時間を調整する。

独立行政法人の高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によれば、デスクワーク中心や短時間勤務など負担が少ない仕事を与えるなど、無理なく続けられる理解や配慮のある職場は全体の3割にとどまっている。仕事との両立がかなわずに離職した経験を持つIBDの患者も3割程度いる。

IBDの治療薬を手掛けるヤンセンファーマが社会人1000人を対象に19年に実施したインターネット調査でも、自身の職場がIBDなどの難病であることを「伝えやすい」と回答したのは37%にとどまった。IBD患者はトイレの頻度が多かったり、残業などの業務に制限がかかったりするケースもある。病気に理解を得やすい職場環境づくりの余地が大きい。

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就職時、持病明かさぬことも

就職時に病状を明かすかどうかも患者の悩みだ。難病患者の就労支援事業などを展開するゼネラルパートナーズの藤大介氏は「自身の疾病を管理したり、疾患の状況を職場に伝えたりする能力が大切だ」と話す。

だが病気をオープンにすることに二の足を踏む人も多い。東京女子医科大学の板橋道朗教授は「主治医としては職場の理解を得た上で働いてほしいが、症状が落ち着いているタイミングなどでは持病を明かさずに働き始める患者が多い。正解はない」と明かす。コロナ禍で雇用情勢が厳しさを増す中、不利な情報はますます明かしにくくなるとの懸念もある。

少子高齢化で働き手の平均年齢が高まるなか、難病に限らず病気を抱えながら働く人は今後ますます増える。厚生労働省は治療と仕事の両立を支援するためのガイドラインをまとめ、企業に環境整備を促している。通院などのために使える時間単位の有給休暇や病気休暇、フレックスタイムなどの制度を導入し、両立支援の専門家を配置した場合の助成金制度も設けた。

コロナでテレワークが普及するなど働き方改革の機運が高まる中、難病患者を含めた多様な働き手を支援する取り組みが求められている。

(牛込俊介)

[日本経済新聞夕刊2020年10月7日付]

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