肉もパンも、新鮮で格安 食品の工場直売に行ってみた
ステイホームで料理する機会が増え、日々の買い物に頭を痛める人は多い。肉やスイーツなどを大量に安く買える工場直売が人気を集めていると聞き、行ってみた。
記者(24)は入社1年目。初めての一人暮らしで普段の食事は外食や弁当が中心。新鮮な肉などを販売する工場直売が人気と聞き、夏バテ気味の体に活を入れるためにも料理に挑もうと思い立った。
まず下調べ。工場直売の情報サイト「エフペリ」を見つけた。全国の直売所約2100カ所を地域や食材で分け、開催日などを掲載。運営会社エフペリ(東京・中央)社長の早見信吾さんは「コロナ禍でホテルやレストラン向けの肉を扱う会社など新たに始めたところもある」と話す。
肉なら焼けばいいので記者でも何とかなりそうだ。焼肉店などと取引する食肉問屋クラショウ(東京・板橋)に狙いを定めた。9月中旬の水曜日午後、板橋営業所で開かれる即売会に向かった。
整理券の番号が呼ばれて中に入ると「お買得商品」がずらり。黒毛和牛肩ロースステーキ用(180グラム、1000円)など、よだれが出てきそうだ。営業部部長の葉山茂行さんは「小売店なら3倍はします」と胸を張る。記者が訪れた時点では板橋営業所で即売会を開いていたが、今後は同区内に開店した「肉処 KURA」で毎月第2、第4土曜日に直売を行う。

ホテルやレストランなどに肉を卸すアマイ(同・港)はコロナ禍を受けて4月から週末に直売を開始。開店前には30人程度が列をなしていた。
記者は下戸で大の甘党。おやつに食べられるパンやスイーツも「現地調査」。東京・板橋の富士食品は工場の一角にある店舗でパンを直売している。150円の詰め放題に挑戦し、12個ゲット。スイーツのアウトレットで有名なドンレミー(同・足立)の上野不忍店では、カスタードプリンが1個50円で買えた。

興味の赴くまま工場直売に足を運んだ。流通コストなどがかからないので小売店に比べて3~5割安く買えるものが多く、人気を実感した。情報サイト「エフペリ」の今年4~8月の閲覧数も前年同期比約3割増えたという。
ただ、安さにつられて買い過ぎたのは反省点。そこで、専門家や「達人」にうまく買い物するコツを聞いた。

大事なのは情報収集だ。情報サイト以外ではSNS(交流サイト)も参考になる。行楽サイト運営会社、レッツエンジョイ東京執行役員の河野道久さんは「『#(ハッシュタグ)工場直売』で検索するといい」と助言する。地元向けにこぢんまりと開いているところが見つかるという。
工場直売の歴史などは定かでないが、地元へのサービスから始まったとされる。日時限定開催や休業日以外は営業など様々なので確認する。埼玉県春日部市にあるアンデスハムの直売所「とんとん畑」ではロースハム(100グラム、200円)が午前中に売り切れることもあり、早めの訪問が無難だ。
効率的にまとめ買いするなら「食品工業団地」も狙い目。例えば、横浜市金沢区の幸浦から福浦の一帯は中華の総菜、スイーツなど食品工場が多く、開催日や時間帯を調べてハシゴもできる。旅行ライターの下川尚子さんは「飲食店など休憩できる場所を事前に調べるといい」と勧める。
購入後の保存場所には気を配ること。クラショウに友人と来ていた女性は「まとめ買いに備えて1~2週間前からアイスクリームを買い控えるなど冷凍庫のスペースを確保している」と話す。
工場直売で安くておいしいものが手に入った。実食したクラショウの黒毛和牛ステーキは口に入れた瞬間肉汁があふれだした。富士食品のカレーパン・甘口(80円)はあんがおいしいうえ、生地がもちもち。ドンレミーのカップケーキ(160円程度)はほどよい甘さで、食べ過ぎた。

コロナ禍で制約の多い日々が続くだけに、食材調達やお出かけ先として工場直売を活用し、おいしい食事で心身ともに満足したい。買い物と料理の大変さも痛感、母への感謝の気持ちを新たにした。
◇ ◇ ◇
「直送」にも様々なサービス
生産者と消費者をつなぐ「直送」にも様々なサービスが広がる。農産物販売企画のアップクオリティ(東京・新宿)は高速バスの荷物入れの空きスペースを利用して地方の生鮮食材を届ける「産地直送あいのり便」を展開。主に都内のオフィス街で日替わりのマルシェを開いて販売している。泉川大社長は「コロナ禍で高級食材の出荷が減少しているので、物流に一役買って消費者のもとに届けたい」と話す。

良品計画が運営する「諸国良品」はインターネットを通じて生産者から野菜や果物、雑貨類などを購入できるサービスだ。作り手の情報も事細かに発信する。消費者も納得して食材を買えることで、新たな市場を生み出している。
(清水玲男)
[NIKKEIプラス1 2020年10月3日付]
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