もちもち麺で具だくさんの鍋ぺろり 山梨のほうとう

2020/6/25
「ちよだ」では注文を受けてから煮込むので30分程度かかる
「ちよだ」では注文を受けてから煮込むので30分程度かかる

山梨県の代表的な料理といえば、平打ちの太麺とカボチャなどの野菜を味噌で煮込んだ「ほうとう」が真っ先に思い浮かぶ。県内全域で作られ、食べられている郷土料理だ。県内では新型コロナウイルスの影響が落ち着いてきたこともあり、今回紹介する店は消毒などを徹底し、徐々に営業を始めている。

ほうとうの歴史は平安時代に遡るという(ふるさと文化伝承館の中山館長)

山梨の食文化に詳しい「ふるさと文化伝承館」(同県南アルプス市)の中山誠二館長によると、ほうとうの麺はうどんと違い、コシを強くするための「寝かせる」工程がないのが特徴という。

ブドウやモモの生産日本一の山梨県はかつて、養蚕が盛んだった。作業の合間に時間をかけず、食事を準備するため、粉のかかった打ち立て麺を鍋に放り込む。野菜をざっくり切り、ごった煮にする。定義はそれだけ。カボチャのイメージが強いが、実は必須の食材ではないそうだ。野菜もわざわざ買わず、冷蔵庫に残った物でいい。だから、家庭によって具材は異なる。

JR甲府駅周辺で食べるなら、郷土料理店「ちよだ」やほうとう専門店「小作」が有名だ。通常営業を再開したちよだは注文を受けてから煮込む。待つこと30分程度。カボチャやサツマイモ、シイタケなど9種類の具材が入った鍋が出てきた。もちもちした麺が溶け、汁は少しどろっとしている。麺も具も鍋いっぱいだが、ぺろりと食べられる。

ちよだの斉藤義伸社長は「店で独自にブレンドした甲州味噌を使い、お客さんの顔を見てから麺をゆでる。家庭料理だから昔ながらの作り方にこだわってきた」と話す。ゆでた麺を冷水で締め、熱々のつけ汁で食べる「おざら」の名店でもある。暑い季節にはこちらもお勧めだ。

「小作」の「あずきほうとう」は小豆がごろごろ入り、ぜんざいに近い

小作では「かぼちゃほうとう」のほか、「豚肉ほうとう」「ちゃんこほうとう」「あずきほうとう」などメニューが豊富だ。あずきほうとうはあんこの汁で麺を煮込む。「ぜんざい」に近く、小豆の粒がごろごろ入ったデザートといった印象だ。現在は時短営業中の小作甲府駅前店の笹森剛崇店長は「あずきほうとうを目当てに来る人もおり、普段は月に60杯ほど注文がある。主食として提供しているが、デザートとして注文する人が多く、ハーフサイズも用意している」と語る。

ほうとうは山梨県民に根付いた家庭料理。それぞれの家の味があり、地元住民は「うちのが一番」と口をそろえる。だから、コロナ禍の収束後、地元の人と親しくなって自宅でごちそうしてもらうのが一番、なのかもしれない。

<マメ知識>ルーツ、実は平安時代
中山館長によると、戦国武将の武田信玄が陣中食にしたとの伝説があるが、根拠はなく、ルーツは平安時代に遡る。遣唐使が中国から伝えたとされ、12世紀ごろの辞書に「ハウタウ」に関する記述がある。平安貴族の日記にも登場する。当時は小豆のすり汁に入れた「小豆ぼうとう」が一般的だった。庶民に広まったのは江戸時代以降。日向(宮崎県)の修験者が1815年に甲州(山梨県)を訪れた際、「名物ハウタウをごちそうになった」と書き残している。200年前には甲州名物になっていたようだ。

(甲府支局長 内藤英明)

[日本経済新聞夕刊2020年6月25日付]

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