「経営努力では限界」 芸術団体存続へ制度の見直しを日本フィルハーモニー交響楽団の平井俊邦理事長に聞く

名門日本フィルも他のオケ同様に厳しい状況を迎えている=山口 敦撮影
名門日本フィルも他のオケ同様に厳しい状況を迎えている=山口 敦撮影

コロナ禍で途絶えていたクラシックの公演が再開へ動き出したが、存続が危ぶまれるオーケストラもある。日本フィルハーモニー交響楽団の平井俊邦理事長に、現状や支援策などを聞いた。

――日本フィルが活動を停止したことの影響はどのぐらいか。

「7月まで活動が止まると、3億円ほどの収入減が予想される。一方、人件費を中心とした固定費は毎月5000万円程度かかる。仮に8月からソーシャルディスタンス(社会的距離)に配慮しながら公演を再開したとしても年4億円の赤字になり、債務超過に陥ると予想している」

備え難しく

――これまで経営者として、危機的状況にある企業や楽団の再建にあたってきた。その経験に照らし、新型コロナウイルスの影響をどうみるか。

「活動が停止している状態なので、経営努力のしようがない。できることは金融機関から融資を引き出すことぐらい。日本フィルは東日本大震災が発生した2011年3月11日、東京都内で演奏会を開いた。ホールなどの安全が確認され、お客様を迎えることが可能だと判断したからだ。見えないウイルスを相手にしながらの公演再開はさらに難しい判断を迫られる」

――危機に瀕(ひん)する各オーケストラが存続するうえでの課題は。

「制度上の問題が大きい。多くの楽団が公益財団法人という形態をとっているが、年間の収入と支出をトントンにしなければならない『収支相償の原則』がある。利益を出し、積み立てておくことが難しいため、今回のような危機への備えができない。一方、2年連続で純資産が300万円を下回ると、法人資格を失い解散を迫られる」

「バレエ・オペラといった舞台芸術や美術館など、多くの文化・芸術団体が公益財団法人になっている。大半の団体は潤沢な資産があるわけではないし、自治体の予算や大きな支援母体に頼らない自主運営の団体は、軒並み解散の危機が迫っている。芸術の危機だ」

――制度をどう見直せばいいか。

「長期的には抜本的見直しが必要だが、時間がかかる。差し当たって公益財団法人の資格喪失にモラトリアム(猶予期間)を設けてもらいたい。コロナの影響で経済が落ち込み、芸術を支援しようという企業の業績も低迷するだろう。芸術団体の財務改善の道のりは相当長引きそうだ。2年で資格を失うところを4年以上に延ばしてもらいたい」

――猶予期間があっても、収入がない状態が続けば資金繰りは厳しい。

「無利子無担保の貸付制度の拡充を求めたい。どの団体も1回融資を受けられたとしても、キャッシュフローは1年持つかどうかという程度ではないか。本格的な活動を再開できない状況が続けば、いずれ資金が足りなくなる。追加融資を受けやすい仕組みにしてほしい。返済期限がなく、実質的に自己資本とみなせる『永久劣後ローン』の文化・芸術団体への活用も検討していただきたい」

「芸術活動はいったん凍結してしまうとどうしてもレベルが下がり、やがて死に至る。再開したとしても、活動できなかった間に毀損された芸術性を回復するには相当な時間がかかるものだ。だが各団体が生き残らないことにはどうしようもない。日本フィルも近年演奏レベルが向上してきていたので、回復には時間がかかるかもしれない。だが存続さえできれば、必ず良い演奏を届けられる」

「コロナ後」探る

――文化芸術より個人や中小企業への支援を優先すべきだとの意見は多い。

「日本では、文化芸術は余裕がある人の道楽や教養ととらえられてきた面がある。だが心がカサカサになったときに、芸術がどれだけそれを潤わせ、和ませることができるか。長い自粛生活で痛感した人も多いのではないか。社会と経済、文化は一体のものだ」

「コロナ後の社会ではもちろん文化・芸術団体のあり方も問われるだろう。オーケストラでいえば、単独で演奏会を開催し、その収入を支えにしていくもろさ、リスクの大きさが明らかになった。新しい時代を生きるための模索を今から始めなければ」

(聞き手は西原幹喜)

ひらい・としくに
1965年慶応大経済卒。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。98年千代田化工建設専務に就き、経営再建を担う。07年日本フィル専務理事となり債務超過を解消。14年から現職。

[日本経済新聞夕刊2020年6月15日付]

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