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鮮魚自慢の居酒屋が「魚屋さん」 検定1級の技が人気

日経MJ

原宿店の店先で鮮魚を販売している(東京都渋谷区)
原宿店の店先で鮮魚を販売している(東京都渋谷区)

新型コロナ感染拡大による飲食店への打撃は日増しに悪化している。店先に閉店の挨拶を張り出す店もかなり見かけるようになった。そんな光景を目にすると、過去に取材した飲食店の近況が気になり、電話やメールすることが増えた。

「最近ね、店先で魚屋を始めたんですよ!」と元気な声を聞かせてくれたのが、都内で鮮魚居酒屋「魚まみれ眞吉」を5店舗経営するフィッシュウェル(東京都狛江市)の日紫喜智社長だ。

魚まみれ眞吉は、日紫喜社長自ら豊洲市場に足を運び全店の魚を仕入れる。時には地方の漁港からも魚を仕入れ、とびきり鮮度の良い魚をウリにして各店ともに繁盛していた。

しかし、新型コロナ感染拡大で売り上げは激減。現在は恵比寿の店舗が休業し、代々木八幡、新橋、渋谷、原宿にある4店はランチ・ディナー営業やテークアウト営業している。さらに原宿店では店先での鮮魚販売も始めた。

「緊急事態宣言以降、豊洲に行くと魚が売れ残っていて、買い手がつかず捨てられていたんです。廃業する仲買も出るなどの噂も耳にして、少しでも力になれないかと始めました」と日紫喜社長は語る。

鮮魚販売を始めるにあたり、まず管轄の保健所に相談し「魚介類販売業許可」を取得。原宿店は店先の開口部が広く、近くにマンションなど住人が多いので商機があると判断。豊洲市場で仕入れた魚を運ぶために16万円で中古の軽自動車を購入した。

日紫喜智社長自ら豊洲市場に足を運び魚を仕入れる

鮮魚販売は午前10時から午後1時ごろまで。4月末に鮮魚販売を始めたところ、近隣の住人が集まり、連日ほぼ完売。お客からは「近くに魚屋が無いから助かる」と大好評だ。

一匹売りのマルモノは無料で三枚おろしなどにさばく。500円の加工賃で焼き魚や煮魚、刺し身などにもする。加えて「日本さかな検定1級」に合格した無類の魚好き日紫喜社長によるタレント顔負けの口八丁手八丁の接客だ。お客はこぞって店先に並ぶ魚の名前を聞き、調理方法を聞いて楽しそうに買い物をしている。まるで昭和の魚屋がやってきたかのようだ。

鮮魚販売が呼び水になり、テークアウトの「海鮮丼1000円(税別)」「サバ塩焼き弁当700円」なども好評で、1日に80~100食ほど販売する。鮮魚販売の売り上げも1日20万~25万円と、こちらも好調だが、輸送費や人件費を引いたら利益は残らないという。それでも日紫喜社長は「自粛ムードで気持ちも沈みがちだったが、お客さんとのやりとりが楽しくて『商売っていいなあ』と初心に返った」。

鮮魚販売は都内の緊急事態宣言が解除された時点での客足を見て、継続か終了かを判断する。ただ、「鮮魚販売+鮮魚居酒屋」のスタイルは今後の新店のヒントとなっている。転んでもただでは起きない日紫喜社長のたくましさに学ぶことは多い。

(フードジャーナリスト 鈴木桂水)

鈴木桂水(すずき・けいすい)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。“美味しい料理のその前”が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。

[日経MJ 2020年5月22日付]

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