絶妙なチーズのお焦げ 日々進化する米シカゴのピザ

2020/4/30
「パッツ・ピザ」はシカゴで最も薄いパイ生地で有名
「パッツ・ピザ」はシカゴで最も薄いパイ生地で有名

米シカゴの名物といえばピザだ。分厚い「ディープディッシュ」が有名だが、種類の豊富さは全米屈指で、敏腕シェフが「伝統と革新」を合言葉に究極のピザ作りに腕を競う。シカゴピザ書籍の著者で、ABCテレビの批評家でもあるスティーブ・ドリンスキー氏に「一押しの3店」を選んでもらった。

「ラブリオラ」のピザはカラメル色に焦げたチーズが特徴。香ばしい味わいを堪能できる

まずはディープディッシュの名店「ラブリオラ」に向かった。オーナーのリッチ・ラブリオラさんは地元で有名なパン職人でもある。同店のピザはカラメル色に焦げたチーズが特徴だ。普通なら深皿の底から上までを生地で覆うが、同店は側面だけチーズを使う。すると、ピザの周辺に黒い「チーズのお焦げ」ができる。一口食べると、その香ばしさがソーセージなどの具材と絶妙にマッチしているのに驚く。「素材には徹底的にこだわった」(ラブリオラさん)という自慢の1品だ。

次に向かったのは「タヴァーン(酒場)スタイル」と呼ばれる薄皮ピザを出す名店。その昔、バーで薄く丸いピザをザクザクと四角く一口大に切り、客に無料で供したのが始まりだ。創業70年の老舗「パッツ・ピザ」はシカゴで最も薄いパイ生地で有名。3代目オーナーのジーナ・ピアネットさんは5歳からたたき込まれた家伝の味を再現している。父親が寝ずに完成させた紙7枚ほどの極薄パイ生地発酵などに6日間を費やす。

「ボブズ・ピザ」はピクルスをトッピングしたピザを考案した

生地は1枚ずつ伸ばして紙の間に挟み、棚に数時間並べる。水分が抜けた生地は焼くと中に空洞がいくつもでき、パリパリになる。時間を置いてもチーズや具材の水分を吸い、ベタベタになることがない。評判を聞きつけて福岡から最近、出店依頼があった。フランチャイズ店は「味が落ちる」と渋るピアネットさんだが、日本進出を「前向きに検討している」そうだ。

「シカゴピザに新風を」と意気込むのはマシュー・ワイルドさん。2019年に「ボブズ・ピザ」を開業し、「アルチザンスタイル」という創造的なピザを提供する。フランス料理を学び、高級レストランで働いた経験をもとに試行錯誤を重ね、生地にビールを混ぜる技を思いついた。試してみると「力のあるガツンとくる味」になった。

トッピングもキュウリのピクルスなど工夫を凝らす。日本で言えば、漬物をピザにのせる感覚だろうか。ピクルスの歯応えと香りで評判になり、インディアナ州など他州から訪れる顧客も多い。

新型コロナウイルスの影響で現在、3店とも通常の営業を見合わせている。再び店内で熱々のピザを食べられる日が待ち遠しい。

〈マメ知識〉1920年代の酒場がルーツ
シカゴピザの発祥は1920年代に遡る。穀倉地帯の中西部らしく、コーンミール(トウモロコシの粉)を生地にまぶしてカリカリに焼き上げるのが特徴だ。当初は薄く丸い「タヴァーン(酒場)ピザ」が主流で、23年に創業した酒場がルーツの「ヴィト・アンド・ニック」は今も営業している。第2次世界大戦中の43年、戦地帰りの兵士に「安くてボリュームのあるピザを」とレストラン店主が考案したのが「ディープディッシュ」だ。70年代には生地が二重になった「スタッフドピザ」も登場した。

(シカゴ支局 野毛洋子)

[日本経済新聞夕刊2020年4月30日付]

注目記事