アーティスト集団「ダムタイプ」 言葉で問う新作舞台

新作「2020」のリハーサルの様子=井上 嘉和撮影
新作「2020」のリハーサルの様子=井上 嘉和撮影

映像や音、身体表現など様々なメディアやハイテクを駆使して先鋭的な作品を生み出してきたアーティスト集団、ダムタイプ。いま18年ぶりの新作パフォーマンス「2020」を制作している。

寝そべったパフォーマーの顔がスクリーンに映し出される。まばたきがライブカメラに検知された瞬間、そこに言葉が生まれ、新たなコミュニケーションが生まれる――。

1月に行われた「2020」のリハーサル。テクノロジーと身体が融合した「ダムタイプらしい」試みとともに穴に落下するダンサーなど、過去の作品をほうふつさせるイメージも盛り込んだ。

ダムタイプは1984年結成、京都を拠点に活動する。中心メンバーの古橋悌二が同性愛者でエイズウイルス(HIV)感染者だった事実に基づき、セクシャリティーや差別などを扱ったパフォーマンス「S/N」(94年初演)を発表。その衝撃の大きさは現在も語り継がれるほどだ。

流動的なメンバー

古橋が亡くなった95年以降は映像などを担当する高谷史郎や電子音楽作家の池田亮司らを軸に活動。流動的なメンバーが作品ごとに集まり、決まったリーダーがいない「ヒエラルキーのない集団」と形容される。新作には約20人が参加。30代のプログラマー古舘健、音楽家の原摩利彦ら若い世代も加わった。

新作は1年半にわたり、メンバー間で延々と続けたコミュニケーションの先に生まれたものだ。その過程はダムタイプとしての関係性を再構築する試みでもあった。

得意分野を持ち寄るだけの分業制ではなく、最初から最後まで全員が自分の言葉を投げかけながら合意形成していく。初参加の古舘は「だらだら話しているだけで、本当にこのままで作品ができるのかと思った」と戸惑った様子もみせていた。

古橋悌二亡き後、ダムタイプの軸となっている高谷史郎

高谷はメンバーによって作品の捉え方は違うと前置きしつつ「言葉がネット上に無限に氾濫して軽くなり、言葉と真実がつながらなくなっている」と指摘。SNSの普及などで、かえってコミュニケーション不全に陥った社会状況を考えて制作してきたと明かす。公演を企画したロームシアター京都の橋本裕介も「テクノロジーがコミュニケーション環境を急激に変えた世界の状況、コミュニケーションが重要なテーマ」だという。

一見非効率な制作過程を経ることで、新作のコンセプトやテーマが次第に浮かび上がり、多面的な作品ができあがっていく。斬新なビジュアルといった印象が強いダムタイプだが、実は「コミュニケーションを繰り返すプロセスにこそ本質がある」と古舘。

イメージ解体狙う

リハーサルでは、女性ばかりのパフォーマーが発した数々の言葉も印象に残った。パフォーマーの砂山典子は「今回は珍しくたくさんしゃべる。その中で個人の叫びのようなものを、どんなボイスでなら伝えられるか」と語った。

ダム(dumb)には口がきけないという意味があり、ダムタイプの名称は言葉が主でないアートという結成当時の態度表明でもあった。しかし、言葉がキーワードになっている今作に関しては、過去のイメージを拡散・解体する狙いもあるようにみえる。

高谷は「『2020』は一つの区切りになる作品」と語る。21年5月にはベネチア・ビエンナーレの日本館代表作家として出展することも決まった。

ベネチアでは音楽家の坂本龍一を迎えるなど「これまでと全く違うダムタイプになってもいい」(高谷)と新たな方向性を探る。未来を占ううえでも、新作は大きな一里塚となる。

(佐藤洋輔)

[日本経済新聞夕刊2020年3月24日付]