多汗症の悩み 交感神経の高ぶり抑え、まずリラックス
春になり気温が上昇すると、何かと気になる汗。ただ、手のひらの汗で書類がぬれてしまうなど、生活に支障がでる場合は多汗症かもしれない。決して珍しい病気ではないので、正しく対処し快適に過ごしたい。
「手に汗を握る」という言葉があるように、緊張したり興奮したりしたときに手のひらに汗をかくことは多くの人が経験する。ただ、手の汗でスマートフォンなど端末が正しく反応しなかったり書類や書籍がぬれて困るケースもある。日常生活に支障をきたすほどの汗をかく場合は疾病とされ「多汗症」と呼ばれる。
全身で大量の汗をかく全身性多汗症と、手のひら、足の裏、わきの下、頭部など特定の場所に集中する局所性多汗症の2種類がある。全身性は甲状腺など内分泌疾患などが原因で、根本の疾病を治療する。局所性は自律神経のバランスが崩れたりストレスがかかったりすることで起こる。
決して珍しい病気ではない。厚生労働省が局所性について2009年に実施した疫学調査では、手のひらに症状がある人は人口の5.3%、わきの下は5.7%だった。研究班の班長を務めた東京医科歯科大学病院皮膚科の横関博雄教授は「身近な病気だが、治療を受けている人は1割以下」と指摘。医師・患者ともに治療可能な病気という認識が広まっていないという。
これまでの研究で病気の特徴も分かってきた。患者の多くは25歳以下で発症し、家族に同様の症状のある人が多い。また、自律神経のうち、日中に心身の活動をつかさどる交感神経が高ぶることの影響を受けるため、午前10時から午後6時にかけて発汗量が増える。逆に睡眠中は症状が治まっていることが多い。こうしたケースや、1週間に1回以上症状があることが診断基準になっている。
多汗症の症状は、「コップを落としてしまう」など日常の暮らしの中での困りごとだけにとどまらない。汗が原因で対人関係など精神的な不調にもつながる。
多汗症専門外来を開く五味クリニック(東京・新宿)院長の五味常明さんは、「ワイシャツのわきの下の汗が目立つので、人前で上着が脱げないなどの悩みを持つ患者がくる」と話す。ビジネスの現場で、手の汗が気になり握手をためらう例もある。
局所性の多汗症はまず、生活改善に努める。緊張、興奮したときに汗をかきやすくなるので、五味さんは「上手にリラックスする方法を見つけるといい」と提案する。軽い運動や、ゆっくりした呼吸を心がけるのも効果的だ。辛いものなど食事の影響もあるので発汗作用のある食材を控える。「肥満は精神的緊張と関係なく症状を悪化させるので、体重を落とす努力も欠かせない」(五味さん)という。
それでも改善しない場合は、医療機関での治療が必要になる。ここ10年ほどで治療法が確立している。15年に改訂された「診療ガイドライン」で最初に試みるべき治療とされているのが20~30%の塩化アルミニウム溶液を夜間、発汗部に塗ることで汗腺の働きを抑える療法だ。また、手のひら、足の裏については発汗部を水道水に浸し、弱い電流を流すイオントフォレーシスという治療法も推奨されている。電気で汗腺を刺激する。
これらで効果がない場合は外科治療の交感神経遮断術が検討される。横関さんによると「手のひらの多汗症に関して遮断術は、ほぼ100%有効に働く」という。ただ「かわりに胸、背中などの発汗が増えるという代償性があるので、医師としっかり相談してほしい」と助言する。
人知れず悩んでいる人が多い多汗症。蒸し暑い季節が来る前に、自分にあった対策や治療に取り組みたい。
(ライター 荒川直樹)
[NIKKEIプラス1 2020年3月21日付]
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