脊髄損傷、長期の筋トレで機能回復 補助付きで歩行も

トレーナーらの補助のもと、専用の歩行器を使ってジムの中を歩く上野さん(東京・江東)
トレーナーらの補助のもと、専用の歩行器を使ってジムの中を歩く上野さん(東京・江東)

交通事故などで脊髄が損傷し、運動や知覚に障害が出る脊髄損傷。治療直後のリハビリテーションに続き、退院後にも続けられる専門のトレーニングをジムなどで指導する取り組みが広がり始めている。立ったり歩いたりするなどの機能を取り戻せるかもしれないと注目が集まっている。

1月上旬、脊髄損傷の人を専門に指導するトレーニングジム「ジェイ・ワークアウト」(東京・江東)で上野優一さん(51)が笑顔で訓練に取り組んでいた。筋トレやストレッチなどのほか、理学療法士の今仲修治さんのサポートを受けながら、立ったり歩いたりする訓練を進める。調子がいいときは、専用歩行器で腕を支えた状態で15~20メートルほど歩くことができるようになった。

上野さんは約10年前、事故で首の頸髄(けいずい)を損傷、胸から下の部分がまひした。事故後の治療やリハビリが終わったあと、もっと機能を回復させたいと考えていたところ、新聞でジェイ・ワークアウトを知り、通うようになった。

当時は車椅子に座って姿勢を保つことも難しく、ジムまでは家族に車で送ってもらっていた。週に2~3回、数時間のトレーニングを重ねて電車で移動できるようになった。上野さんは「ちょっとの介助で3~4歩歩ければ、旅行先のホテルで車椅子からベッドに移れるようになる」とトレーニングの抱負を話す。

交通事故などで脊髄を損傷する人は国内で年間約5000人で、現在10万人以上の患者がいるとされる。現在の治療技術では完治は難しい。機能を回復させるにはリハビリを含めたトレーニングが欠かせない。

損傷直後に病院で治療し、その後、機能を回復させて生活に復帰するためのリハビリを数カ月間するのが一般的。ただ、退院後も長期的にリハビリを続ける人は多くはない。体力や施設までのアクセス、費用面などでも負担が大きいからだ。リハビリが必要と判断されれば、費用の一部に保険が下りる場合もあるが限定的だという。

だが、脊髄損傷者のリハビリテーションに詳しく、運営する初台リハビリテーション病院(東京・渋谷)などで積極的な治療などを進める医師の石川誠氏は「2~3カ月に1回は通院などで専門家の指導の下、トレーニングを続けることが望ましい」と話す。石川氏によると、せっかく初期のリハビリなどで手足などの機能が回復しても、長い間家にこもりがちで活動量が減ると、機能が落ちる人は少なくないという。

トレーニングは、運動機能以外の体や生活のチェックを医師などから受ける良い機会でもある。可能な限り継続すると、多くの効果が期待できるという。

ただ、患者や家族が続けたくても難しいケースも少なくない。全国脊髄損傷者連合会の大浜眞代表理事は「多くの人が機能を十分に回復できるように、長くリハビリを続けられるシステムが必要」と話す。安く訓練できる施設などを増やすほか、自宅で安全にできるトレーニング法などの普及も必要だという。

ただし、無理は禁物。日常生活をしながらのリハビリを続けるポイントについて石川氏は「できることや楽しみを増やすこと。機能の回復にこだわりすぎず、スポーツや仕事などに挑戦してほしい」と話す。

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自宅での筋トレも有効

専用のジムに行かなくてもちょっとしたコツをつかめば、自宅などでのトレーニングも十分効果があるという。

理学療法士の今仲さんは「車椅子をこぐ動作は、浅く腰かけて腕を使うので背中が丸くなりやすい」と指摘。可能であれば重力に負けずに姿勢を保つための背中やおなかなどの筋肉を鍛えるとよい。

車椅子では、深く腰掛けて姿勢を保つだけでも骨盤を起こして体幹を鍛えられる。手は肘掛けに置いてもいい。無理のない範囲でうでを上げるなどするとさらに効果的だ。

下半身の機能が残っている場合は、ブリッジのポーズでお尻など背面の筋肉を鍛えよう。必要ならひざを押さえてもらうとよい。1日1回続けるだけでも効果的だ。

「まひしている領域の存在を感じながら動かす」(今仲さん)のもよい。鏡に体を映したり、触れながら動かそうとしたりすることで、自分の体の状態を知ることが大事だという。

(スレヴィン大浜華)

[日本経済新聞夕刊2020年1月29日付]

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