格差解消への道筋を示す マーケットデザイン理論とは

「医療の選択」に経済学で解を探す(写真はイメージ)=PIXTA
「医療の選択」に経済学で解を探す(写真はイメージ)=PIXTA

市場を根本から理解し、再構築し、改良する――。「市場急進主義」を唱える研究者の著作が話題になっている。富の集中や格差の拡大を防げるのは、規制緩和や民営化を掲げる「右派」でも、国家による富の再分配を重視する「左派」でもないと強調する。

エリック・A・ポズナーとE・グレン・ワイル著『ラディカル・マーケット』(安田洋祐監訳、遠藤真美訳、東洋経済新報社、2020年1月)は「大規模な経済を組織するアプローチとして、市場に対抗する選択肢はない」という認識から出発する。「理想化された市場」へのノスタルジーにとらわれる右派の「市場原理主義」とは一線を画し、競争による規律が働き、すべての人に開かれた自由交換の場である「ラディカル・マーケット」実現への具体策を列挙する。資本主義の根幹をなす私有財産制度にも矛先を向け、「共同所有自己申告税」の導入で資産の所有権が移転しやすい仕組みとするよう求めている。

同書の下敷きとなっているのはマーケットデザインと呼ばれる経済理論だ。栗野盛光著『ゲーム理論とマッチング』(日経文庫、19年10月)によると、マーケットデザインは、1990年代にゲーム理論から生まれてきた経済学の一分野で、市場のルールが望ましいかどうかを公平性、効率性とインセンティブの3つの基準で判断する。市場ルールの改革が叫ばれるときはまず、公平性の問題が原因になっている場合が多いと説明している。

坂井豊貴氏は『マーケットデザイン』(ちくま新書、13年9月)で理論と事例を解説し、市場を改良する理論の意義にも触れている。経済学に基づき、腎移植、学校選択、オークションのような社会の仕組みを一つひとつ地道に改良する作業を連続させ、社会を少しずつ住みよくしていくのが基本姿勢という。

マーケットデザインの対象は広がりつつあるが、現状では限られた領域にとどまっている。社会の仕組みを少しずつ変えていく地道な作業だけでは追いつかず、ポズナー氏らの提案を夢物語だと片付けられないほど市場経済は追い込まれているのかもしれない。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2020年1月25日付]

ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀: 公正な社会への資本主義と民主主義改革

著者 : エリック・A・ポズナー, E・グレン・ワイル
出版 : 東洋経済新報社
価格 : 3,520円 (税込み)

ゲーム理論とマッチング (日経文庫)

著者 : 栗野 盛光
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 990円 (税込み)

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