地方から挑むアートとしてのダンス 新潟の劇場舞踊団
2004年に設立された新潟市のダンスカンパニー「Noism(ノイズム)」が存廃の危機を乗り越え、新作公演に取り組んでいる。地元市民への貢献を重視する姿勢を打ち出し、新たな道を探る。
Noismは、新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)の専属。市の劇場が、10人程度のダンサーの集団を雇用し、年俸を支払っている。芸術監督を務める金森穣はモーリス・ベジャールといった20世紀舞踊界のスター振付家に師事。欧州でダンサー・振付家として活躍し、帰国後、Noism発足と同時にトップに就いた。
公共劇場が専属の歌手や踊り手らを抱える体制は欧州ではよくある。しかし日本では年俸制の劇場専属舞踊団はNoismだけ。「税金の無駄遣い」と批判される恐れは設立当初からあった。一方で、東京から出演者やスタッフを招いて舞台を制作するコストを考えれば「10人の年俸は安上がり」とも言われていた。
週末にスクール
これまで国内外約50都市で公演を重ねてきた。多くの賞も獲得したが、2019年夏、活動に黄信号がともった。18年秋に市長が交代したことを機に、存続させるかどうかの検討が始まったのだ。財政難を背景に、市はいくつかの文化イベントを手放している。Noismだけ特別扱いというわけにはいかなかった。
検証に参加した第三者機関、アーツカウンシル新潟は市民向けのワークショップといった身近な活動や他劇場への作品の売り込み、マネジメント人材の不足などを課題として挙げた。金森は「新潟市と市民が問題意識を持つ機会になった」と存廃の議論を前向きにとらえ、市民にダンスなどを教えるスクールを毎週末に開くことや、団体名を「Noism Company Niigata」として新潟の名を海外にもアピールすることなどを決めた。ワークショップなどは以前からやっていたが、さらに拡充する。
結果、22年夏までの活動継続が決まったが、検証は続く。「ダンスが社会とどう向き合い、どう芸術を作るのか考え続けなければならない」と金森は気を引き締める。
集団にこだわる
設立時に比べると「ダンス」はより身近になった。学校の授業に取り入れられ、ストリートダンスやYOSAKOIなどのイベントも若者に人気がある。ただ、こうした集団で動きをそろえるリズムダンスと、Noismのコンテンポラリーダンスは違う。金森も言うように社会と向き合い、人間や芸術について考え続ける「アート」なのだが、これがダンス人気の中で逆に理解されにくくなったようにも見える。
ベジャールらスター振付家が相次ぎ鬼籍に入り、海外でもリーマン・ショック後は大規模なダンスカンパニーを維持するのが難しくなっている。金森は「だからこそ私は集団にこだわりたい。長く共に訓練した集団にこそ生み出せる芸術がある」と存在意義を訴える。
活動見直し後の新シーズンで最初の新作となる「Farben」「シネマトダンス―3つの小品」は、こうした現状を踏まえて生み出された舞台だ。19年12月にりゅーとぴあで公演、17~19日には彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)で上演される。
Farbenはドイツで活躍した振付家、森優貴の新作で「集団」の芸術。シネマトダンスは金森が振り付け、3部構成の一部では少人数が踊る。「公演に来てほしいが、予算が無くて小規模なものしか呼べないという劇場が多い」と金森。そんな要望を踏まえ、小さな劇場でも上演しやすい作品を用意した。
逆風がやんだわけではないだろう。だが金森の作品や、東西の舞踊の技法を組み合わせてつくったダンスの訓練法に引かれる若者は海外にも多い。現在、Noismメンバーの約半数は日本以外の出身者だ。りゅーとぴあの仁多見浩支配人は「新たなステージに入ったNoismの今後を、劇場全体で考えていきたい」と語る。
(編集委員 瀬崎久見子)
[日本経済新聞夕刊2020年1月14日付]
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