ステーキ調理の科学 じっくり弱火焼きでジューシーに
とっておきの日に食べたいのがジューシーなステーキやローストビーフ。でも、かたくてパサパサになる、という失敗に悩む人もいるのでは。調理科学に基づいた焼き方、作り方を教わった。
ステーキの焼き方で「まず強火で表面を焼き固めて、うまみを逃さないようにする」という方法を実践する人も多いだろう。
しかし、「肉のうまみを逃さず、ジューシーに焼きあげるには、弱火でじっくりと火を通す方が確実」と話すのは、東洋大学食環境科学部健康栄養学科助教の露久保美夏さんだ。
肉のタンパク質は50度を超えたあたりから変化し始め、凝固し収縮する。高温になるほど肉は急激に収縮するため、肉の内部の水分やエキスが外に出てしまい、パサつく。一方で弱火でゆっくり焼くと、水分を保持し、中まで火を通せるという。
常温に戻さず すぐ調理OK
「焼く前の肉は冷蔵庫から出し、常温に戻してから」といわれる。これも「厚み2~3センチ程度のステーキ肉なら、冷蔵庫から出してすぐ調理し始めてもOK。弱火でじわじわ温度を上げながら焼くので問題がない」と露久保さん。
ところで弱火とは。実は火力ではなく「フライパンの底の面積の約4分の1に火が当たる状態にすること」(露久保さん)。とはいえ、肉の同じ面がフライパンに当たり続けると温度が上がり過ぎる。ひっくり返し温度を下げながら焼くのがポイントだ。フライパンの材質により異なるが、厚さ2センチ前後の肉の場合、片面約2分ずつ3回焼く。
最後に、強火で30秒~1分程度、両面を焼く。この目的は内部に火を通すことではない。「(食材の中に含まれるアミノ酸と糖が加熱によって結びつく)メイラード反応が起きて焼き色と香ばしい香りが生まれ、おいしさの向上につながる」(露久保さん)
約15分焼いた後はバットや皿に取り出し、アルミホイルで包み4~5分間休ませてから食べる。「焼きたての肉の中では水分子が活発に動いている。ここで切ると肉汁が流れ出てしまう」。肉のうまみを全部味わうなら、その動きが収まってからがベストだ。
比較的安価な肩ロース肉はかたい場合もある。露久保さんは「やわらかくしたいなら、水に対して2~3%の分量の重曹を溶かし、肉を約15分つけてから調理するとよい」という。肉のタンパク質に重曹のアルカリ性が作用し肉の筋線維のつながりがゆるみ、やわらかくなるとのことだ。
ジッパー袋で 塊肉も簡単に
マイタケやキウイ、ショウガを使い肉をやわらかくする方法もあるが、重曹は安価で保存可能で、いつでも使える。ただ、肉の味には影響を与えないものの、入れすぎると苦味が出てしまうので要注意。
塊肉で作るローストビーフは火の通り加減の見極めが難しい。「耐熱のジッパー式袋に入れて湯につける調理法なら失敗がほとんどない」と露久保さんは話す。熱は温度の高いところから低いところへ伝わるため、湯に塊肉を沈めれば、全方向から同じ温度で肉に熱が伝わり、加熱ムラが防止できるからだ。湯を再沸騰させた後は火を止め、余熱で調理する。外側を加熱しすぎることなく、内部の温度が上昇し、ロゼ色のローストビーフができる。この時の肉内部の温度は55~60度となり、しっとりとした食感に仕上がるという。
湯につける前か後にフライパンで焼き色をつけるのがコツ。ステーキ同様にメイラード反応が起き、焼き色と香ばしさがでる。表面に付着する食中毒菌は沸騰した湯につけ焼くことで死滅し、ステーキのレアと同じ状態になる。
カットして、火の入り方が足りない場合は電子レンジで少しずつ加熱して調整する。
肉の選び方も押さえておこう。最近は赤身に脂が細かく入り込んだやわらかそうな霜降り肉よりも、ヘルシーで、かみしめる喜びが実感できる赤身肉が人気という。
和牛種をはじめ、輸入肉の取り扱いも多い日進ワールドデリカテッセン(東京・港)によると、「ステーキ用として販売している肉で最もやわらかい部位がヒレ。次にリブロース、サーロイン、ももと続き、肩ロースは一般的にかため」。様々な牛肉の味わいの差にくわしい精肉責任者、牧野隆夫さんは説明する。
いつもの調理法だとうまくいかない、という人は試してみてはいかが。
(ライター 土井 ゆう子)
[NIKKEIプラス1 2019年12月21日付]
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