轟音ノイズのシューゲイザー復活 90年代ロックの熱気

ライドの日本公演。エフェクターを操る様はまさに「シューゲイザー(靴を見つめる人)」=岸田 哲平撮影
ライドの日本公演。エフェクターを操る様はまさに「シューゲイザー(靴を見つめる人)」=岸田 哲平撮影

1990年代初め、英国を中心に一世を風靡した「シューゲイザー」と呼ばれるロックバンドが続々と復活している。ギターの轟音(ごうおん)ノイズと甘美な歌メロディーを特徴とするサウンドが今また鳴り響く。

「家では僕もエレクトロミュージックばかり聴いている。でも(時代遅れと言われる)ギターロックの可能性はまだまだあるさ。僕らの音楽はエレクトロとの親和性も高いからね」

2014年、18年ぶりに再結成したライドのマーク・ガードナー(ボーカル・ギター)はそう力を込める。88年に結成、90年の初アルバム「ノーホエア」が反響を呼び、シューゲイザーの「御三家」と称された。

電子音と親和性

メンバー間の確執で96年に解散したが、再結成後はバンドの一体感が増し、以前にも増して精力的に活動する。17年に21年ぶりのアルバム「ウェザー・ダイアリーズ」を発表。今年夏には復活後第2作「ディス・イズ・ノット・ア・セイフ・プレイス」を出した。

マークは「久しぶりに出すアルバムは、以前のリスナーにとって親しみやすさや懐かしさも必要だ。その意味で前作は手探り、今回は本格的に新しいアプローチをしている」と話す。

08年に活動再開したMBVのビリンダ・ブッチャー(C)Tristan Gregory/Camera Press/アフロ

制作中、ロンドンで開かれていた画家ジャン=ミシェル・バスキアの展覧会にアンディ・ベル(ボーカル・ギター)と出かけ、大いに触発されたという。プロデューサーには大物DJエロル・アルカンを起用し、エレクトロやダンスミュージックを巧みに消化してアップデートをはかった。

11月の来日公演では新曲に、かつての代表曲「シーガル」「ヴェイパー・トレイル」などを交え、歓声を浴びた。マークは「バンドは着実に前に進んでいる」と手応えを語る。

シューゲイザーは、アンプとのフィードバック(共振)を利用して歪(ひず)ませたギターの大音響を幾重にも重ね、甘くささやくようなボーカルを乗せるのが代表的なスタイルだ。オアシスなどブリットポップ勢の台頭で、90年代半ばにはバンドが相次いで休止・解散。コアな音楽ファンによる一時的なブームとみられ、忘れられた存在となっていた。

14年に再結成したスロウダイヴのレイチェル・ゴスウェル(C)Photoshot/アフロ

だが、90年代後半から沈黙していた御三家の筆頭、アイルランドのマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(MBV)が08年に活動再開すると、時は再び動き出す。音楽ライターの黒田隆憲氏は「当時、米国のディアハンターなどシューゲイザーの遺伝子を受け継ぐ若いバンドが活躍しており、後押しになった」という。

スワーヴドライヴァー、チャプターハウスといった英国勢がMBVに続く。14年には御三家の一角、スロウダイヴが19年ぶりに再結成して初来日。17年には22年ぶりの新譜を出した。

00年代にエレクトロニカと呼ばれる電子音楽が隆盛したことも、シューゲイザーの復権につながった。ドイツのレーベル、モール・ミュージックがエレクトロニカのアーティストによるスロウダイヴのトリビュートアルバムを発表。「シューゲイザーとエレクトロミュージックは相性が良いと広く伝わった」と黒田氏。

遺伝子は脈々と

シューゲイザーの全盛期、リアルタイムで聴いていたファンは現在40~50代になる。この世代の根強い支持に加え、当時を知らない若い世代による80~90年代の再評価が復活劇を導いたといえそうだ。

黒田氏は「シューゲイザーというのは、音楽ジャンルというよりも『手法』だと思う。その手法を取り入れたバンドは国内外にたくさん存在し、遺伝子は確実に受け継がれている」と指摘する。邦楽の人気バンド、サカナクションも今年出した新作アルバムでシューゲイザーを取り入れた。シューゲイザーは、時代を超えたアート表現になり得るのかもしれない。

(多田明)

[日本経済新聞夕刊2019年12月2日付]

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