冬の乾燥が招く隠れ脱水 持病ある高齢者は要注意
朝晩が冷え込み、いよいよ冬の到来を告げる季節がやってきた。室内で暖房をつける家庭も増えてきたが、高血圧や心臓病などの慢性疾患を持つ高齢者が特に注意しなければならないのが「かくれ脱水」だ。水分を取る頻度が減るうえ、空気の乾燥で気付かぬうちに脱水症状に陥ることも多い。「こまめに体調管理してしっかりと対策を」。専門家も注意を呼び掛けている。
訪問介護サービスの利用者宅に入ると、タオルを水につけて絞り、部屋に干す。手軽な乾燥対策としてこの時期には欠かせない。「利用者も家族もつい忘れがちになる。いつも注意している」。ニチイ学館に所属する介護福祉士、三上かつ子さんの基本動作だ。
なぜ冬場の脱水に注意する必要があるのか。呼吸や皮膚からの自然蒸発で無自覚のまま脱水症状になる可能性が高いからだ。暖房器具を使うので室内が乾燥しやすい。特に最近の住宅は気密性が高く、高温で湿度も低い状態で過ごす時間が長いことも、かくれ脱水の原因の一つになっている。
「高血圧や心臓病などの慢性疾患を持つ高齢者の命を脅かす可能性もある」。帝京大学の三宅康史教授は指摘する。体内の水分が占める割合は成人で体重の60%とされ、65歳以上は50%程度にとどまる。喉が渇いたと感じる機能も低下し、脱水症状に気付きにくい。
体内水分量が少ないと、血液の流れが悪くなって血管が詰まり、脳卒中や心筋梗塞を引き起こす原因となる。糖尿病の場合、服用する薬の種類によっては利尿作用があり、脱水症状を起こしやすくなるリスクもある。冬場はインフルエンザウイルスやノロウイルスなどの感染症が流行するため発熱や下痢、嘔吐(おうと)にも注意が必要だ。食欲がなくなると食材に含む水分も取れなくなり、脱水を加速させる危険もある。
最も重要な対策は定期的な水分補給だ。喉が渇いていなくても時間ごとに水を飲む。入浴前後も忘れないようにしたい。「朝、起きたときは誰もが軽い脱水状態」(三宅教授)のため、夜寝る前と起床時には水分を取ることが望ましい。
ただコーヒーや緑茶などカフェインを多く含む飲料は利尿作用があり、かえって水分を失う恐れがある。スポーツドリンクも糖分が多いため、日常的に飲むには不向きだ。介護の現場では「白湯のほか麦茶やほうじ茶を勧めることが多い」。三上さんは説明する。
一度に多量の水を飲むのも逆効果だ。少量ずつこまめに取った方が水分を保持しやすいからだ。「体内の水分量調節を担う腎臓は多くの水が入ってくると尿を作り排せつを促す」。三宅教授は話す。喉の渇きを訴えられない人には、皮膚がかさついていたり、口が粘ついていたりする際、水分の摂取を勧めるとよい。
冬の脱水は夏に比べて自覚しにくいうえ、脱水になるのは夏という思い込みによる油断もある。まずは冬にも脱水リスクがあることを認識し、普段と体調が異なる際は「脱水かも」と疑い、冷静に対処することが高齢者の命を守ることにつながる。
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熱中症になるリスク
乾燥した室内で脱水状態が進むと、熱中症を引き起こす可能性がある。冬場で特に注意が必要なのは入浴中だ。湯船の中に長時間つかると体内の水分が失われるほか、体温も上昇する。湯船の中で気を失って溺れたり、立ち上がった際に転倒したりする危険性もある。
東京消防庁によると、都内における2018年11月から19年4月までの熱中症搬送者(速報値)は50人。65歳以上は7割を占める。熱中症で搬送される人は夏より少ないが、冬の搬送者は毎年後を絶たない。17年11月~18年4月は99人(65歳以上50人)、16年11月~17年4月は51人(同32人)が搬送され、高齢者が大半を占める傾向にある。
湯気がこもる浴室だけではなく、洗濯機や乾燥機の熱気がこもる洗面所でも油断は禁物だ。冬場は脱衣所と浴室の急激な温度差で血圧が急変する「ヒートショック」を起こす可能性もある。ヒートショックは失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす。特に脱水状態の場合、血圧の変動も大きく、事故のリスクが高まるので注意が必要だ。
(大崩貴之)
[日本経済新聞夕刊2019年11月13日付]
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