VRでスポーツ観戦 チケット無くても特等席の迫力

NIKKEIプラス1

5Gの体験コーナーで、まるでピッチにいるような臨場感あるラグビー映像が楽しめた(東京・丸の内の東京スポーツスクエア)=三浦秀行撮影
5Gの体験コーナーで、まるでピッチにいるような臨場感あるラグビー映像が楽しめた(東京・丸の内の東京スポーツスクエア)=三浦秀行撮影

仮想現実(VR)によるスポーツ観戦が身近になってきた。東京五輪の開かれる2020年には次世代通信規格「5G」が商用化され、より高精細な映像を楽しめるという。魅力を探った。

映画館やアミューズメント施設で体験するイメージの強かったVR。最近は専用のゴーグルをパソコンやスマートフォンにつなげば、自宅でもスポーツやコンサートのVR映像が楽しめる。ゴーグルは10万円以上のものもあるが、2千~3千円台の程度の手ごろな機種も登場している。

5Gは現在の「4G」で送信できる「4K」に比べ、4倍の精細さを誇る「8K」映像をリアルタイムで配信できる。20年の実用化を控え、NTTドコモはラグビーワールドカップのファンゾーンなどに、5Gで見られるVR動画の体験コーナーを設けた。記者(28)も10月下旬、東京スポーツスクエア(東京・千代田)を訪れ、体験してみた。

動画はラグビーのアマチュアチームの試合の約5分のダイジェスト。2階席から選手のスクラムやパスを回す選手を見下ろすシーンと、通常は観客が近寄れないライン際で選手がトライを決めるシーンの2種類で構成されていた。

ゴーグルは約600グラム。重さは大して気にならない。まず感じたのは通常のテレビ画面にはない奥行きだ。ディフェンスがタックルのため素早く間合いを詰める様子は立体感のあるVRならでは。トライの瞬間は、選手が記者の目の前に飛び込んできたような感覚を味わうことができた。

学生時代ラグビー部だった記者は、プロも含め多くの試合を競技場で観戦してきたが、観客席は最前列でもフェンスで仕切られ、そもそも遠くのエリアのプレーはテレビ中継の方が見やすいほどだ。VRであれば、生観戦の臨場感を、テレビ中継と同様、常にグラウンドレベルの目線で楽しめる。自分もゲームに参加している気分にさえなれる。

ゴーグルで長時間映像を見ると頭痛や吐き気を催す「VR酔い」の問題が指摘されている。子供の視覚の発育に悪影響を与える可能性もあり、小学生以下の使用を禁止するメーカーもある。ソニー・インタラクティブエンタテインメントは1時間ごとに15分の休憩を推奨している。記者は今回5分程度の体験だったが、特に不調は感じなかった。

VRを活用すると、試合を間近で観戦しているような臨場感を味わえる(写真はNTTドコモの体験で放映された映像の一部)

東京五輪では、開会式や陸上競技、体操などのVR動画が配信される計画が進んでいる。18年の平昌五輪でもVRの中継は行われたが、日本国内での配信は限られていた。放映権などの関係で「VR動画が実際どの程度、どんな形で配信されるかは未定」(NTTドコモ)だが、東京五輪までには5Gの通信環境も整備され、家庭でもVRの生中継を見られる可能性がある。

例えば走り幅跳びはVRが生きるコンテンツだ。「『距離』を競う種目だが、アスリートの跳躍の『高さ』も見どころ。立体感のある映像は距離と高さを同時に体感するのにうってつけ」(NTTドコモの馬場浩史スポーツ&ライブビジネス推進室長)

観客席の雰囲気も味わえるのもVRの売り物の一つ。ソフトバンクはプロ野球ホークスの試合映像に家族や友人のアバター(分身)を登場させ、ゴーグルのイヤホンやマイクで会話できるサービスを実験済みだ。自宅にいながら友人らと一緒にスタジアム観戦の気分に浸る楽しみ方が、技術的には可能になっている。

「VRならば、様々な競技が最前列の座席と同じ目線で楽しめる」(ソフトバンクの加藤欽一VR事業推進課課長)。東京五輪のチケット抽選に外れた人も「特等席」で観戦できるチャンスがあるかもしれない。

◇  ◇  ◇

機器そろえて運動会も

手ごろな価格で買えるVRカメラが広がっている=リコー提供

一般の人にとって、コンテンツの配信待ちだったVR動画だが、自ら撮影できる環境が既に整っている。必要なのは全方位を撮影できる「360度カメラ」。大手家電量販店では2万円台から手に入る。スマホの動画撮影のように、片手で手軽に操作できる。一度に撮影できる時間は5分から無制限まで機種により様々だが、トータルでは1時間は記録できるものが大半だ。

撮影した動画は、スマホやパソコンに転送して鑑賞するほか、ゴーグルに直接転送できるタイプもある。カメラとゴーグルを一度にそろえると総額3万円ほどの出費になるが、家族や友人とのプライベートな映像をVRで楽しめる環境は既に整っている。近い将来、運動会で孫の姿を祖父母がVRで撮影する光景が当たり前になるかもしれない。

(荒牧寛人)

[NIKKEIプラス1 2019年11月9日付]